最初に断っておくと、僕は水瀬いのりさんが大好きなので、この評価には大きなバイアスがかかっていると思う。
という話をまくらに置いてずばっと断言してしまうと、非常に面白い。当初は、終末世界を舞台とした日常系作品なのかなと思いきや、もちろんそうした赴きもあるのだが、箇所箇所により大きな世界観のヒントになるような要素がちりばめられており、後半からは急にSF感が強まってくる。ロボットと魚(っぽい生き物)の話あたりは、まるっきりSFであった。
基本的には悲しいお話なのだ。
世界で(だいたい)二人くらい残された少女たちの旅。しっかりもののチトと、楽天家で脳天気なのだけれども、だからこそときどき哲学的なセリフを吐くユーリ。二人が繰り広げる旅は、どう考えても希望に満ち溢れたものではない。旅は出会いの物語であるが、本作はものすごくキャスティングが少ない。二人だけで喋って終わりの回が大半である。つまり、ほとんど誰とも出会わないのだ。仮に出会ったとしても、そこには分かれが運命づけられている。
愛車のケッテンクラートはタフな相棒だが、決して居心地の良いHOMEではない。燃料にも気をつけなければならないし、天候不順には弱い。快適とは言い難いだろう。
それでも、二人は旅を続ける。上の階には何かがあるのかもしれないし、何もないのかもしれない。それでも、二人は旅を続ける。そこにあるのはなんだろうか。人間の根源的な欲求なのだろうか。生きているから、生きる。動くものがあるから、進む。案外、ただそれだけなのかもしれない。
本作で、一番悲しかったのは、ユーリが「音楽って何?」とぶつやいた回だった。文明というものがそこにあるならば、彼女ほど音楽的な人間はいないだろう。でも、その彼女は「音楽」を知らなかった。その切なさは、無論文明を持つ側からの勝手な感情の押しつけでしかないのだが、それでも私たちの身の回りに音楽が満ち溢れていることの、その奇跡的な出来事に感謝の気持ちを感じないではいられない。
でも、あるいは、そうではないのかもしれない。なんだかんだで、ユーリは音楽を「発見」した。雨粒が奏でるメロディーをたぐり寄せた。たぶん、私たちがあらゆる文明を失ったその後に、最初に取り戻すのが「音楽」なのであろう。言語を介さずに、ダイレクトに心を揺さぶるメディア。大砲の弾がなくても、銃剣が一切消え去っていても、人の心を穿つもの。ユーリが音楽を発見したことは、悲しさを一周回って、嬉しい出来事だと言えそうだ。
本作についてはいろいろ書きたいこともあるのだが、全体的に斬新で面白く、心に残る作品だった。あと、ヌコに花澤香菜さんを持ってくるのは反則だろうと思う。
監督:尾崎隆晴 [KADOKAWA メディアファクトリー 2017]
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