いや〜、まいった。面白い。さまざまな感情が湧き上がってきて、一言でまとめると「こりゃ、スゲー」みたいな大雑把なことしか言えなくなる。批評的観点から言えることもいろいろ言えるだろうが、まず小説として楽しませてもらった。
主人公の立ち位置にいる迫田はジャーナリストなのだが、何かしらの戦場/戦闘を追いかけている。そこで光学迷彩を持つロボットが出てきて、その名前が「ORGAN」というちょっと変わったネーミングでそういうロボット同士の戦闘シーンが始まるのかと読者として期待を膨らませていたら、迫田が記事を書くのだ。生成AIを使って。
そりゃそうだ。現代からまっすぐ線が引かれた近未来のジャーナリズムは、生成AIで記事を書いているに違いない。しかも、その記事は「事実確認スコア」なるもので判定されている。
そりゃそうだ。テクノロジーは進歩する。生成AIがむやみやたらに記事を作り出すならば、そのカウンターとして事実かどうかを確認する技術もまた発展するだろう。いや、発展してくれないと困る。
こんな感じで冒頭は、近未来感あるテクノロジーの話が置かれていて、一気に親近感が湧く。しかも、先ほどのロボットが圧倒的戦力を見せつけるのだが、こんな説明がある。
余談だが、照準手が両手両脚を宙に舞わせる動作がパイプオルガンを操っているかのように見えるところから、このシステムの名称がORGANに決まったと言われるほどだ。
ここを読んだ瞬間に──ガンダム系アニメが大好きな私の脳内には──全面ウィンドウに映る多数の敵に、優美な手つきで標準を合わせていくパイロットのシーンがくっきりと浮かんでしまった。もうアニメ化まっしぐらである。
ロボットを使った戦闘シーンの描写というのは、かなり難しいはずなのだが、著者は見事にそれを成し遂げている。
そんな感じで、近未来テクノロジー+ロボットアクションを楽しんでいくわけだが、そのまま単純にエンディングに向かうわけではない。物語は大きなうねりを描いて、広いステージへと移っていく。そして気がつけば、ハードなSFの世界に放り込まれている。にもかかわらず、物語のスピード感はまったくもたつくことがない。これを「すごい」と言わずしてなんと言う、という感じである。
それにしてもイグナシオの不敵な感じは、最後の最後まで憎むことができなかった。そういうキャラがいることは優れた作品に欠かせない要素だとも思う。