本書は群論の入門書である。
私は群論の「ぐ」の字も知らずに本書を手に取ったわけだが、それなりに感触は掴めたように思う。もちろん、さまざまな群の性質を使い、縦横無尽に証明を進められるようになったわけではないが、写像や群といった言葉を見たときに、「ああ、あれを差しているのだな」ということが思い浮かべられるようになった。つまり、非常に初歩のレベルながらも群論の「語彙」を手にすることができたわけだ。
いやいやお前さんのレベルなんて理解とはほど遠いと指摘されるかもしれないし、それはまあそうなのだが、そうした言葉を見かけたときに、自分とは縁遠いものでぜんぜん関係ないと思うのではなく、むしろ親しみを持つことができるようになったのは間違いない。人をそれは勉強と呼ぶだろう。
目次は以下の通り。
第1章 集合
第2章 写像
第3章 群
第4章 巡回群
第5章 準同型
第6章 対称群
第7章 同値類と剰余類
第8章 準同型定理
第9章 作用
著者の他の本と同じように、本書はたいへん親切で丁寧である。しかし「簡単で、すぐにわかる」というものではない。そうではなく、読者が一歩一歩理解の歩みを進めようとしているとき、傍について一緒に歩いてくれるような本だ。理解を階段にたとえるならば、上るべき階段を指し示し、段を一つずつ提示してくれ、疲れそうなタイミングで休みを示してくれる。そういう教え方をしてくれる。
なにより嬉しいのが、難しい部分は難しいとはっきり言ってくれることだ。よくある「わかりやすさ」がアピールされた本を読んでいると、わからない部分がでてきたときに「もしかして、自分の頭が悪いのではないか」という気持ちになり、その事実を認めたくないがゆえにそそくさと読み飛ばしてしまうことが起きがちだが、本書は「そうか、難しいのだな。だったらゆっくり取り組もう」と思わせてくれる。そういう意味で、学ぶ勇気を支援してくれる本だとも言える。
その点は、それぞれの章の最後に設けられた「〜〜についての対話」のセクションが顕著だろう。そこでは著者と架空の読者の対話が繰り広げられていて、すでに内容を理解しているはずの著者がなぜこんなに「読者の苦労」を想像できるのかと驚くほどだ。そうした苦労を読んでいると、安心感を持って学びを進めることができる。
もちろん、群論を学ばなくても現代社会で生きていくことは難しくない。同じことはさまざまな学問領域でも言えるだろう。単純なコスパで言えば、勉強する「メリット」が存在しないとも言える。
しかし、逆に考えることもできる。学ばなくても生きていけるからこそ、ゆっくりと自分なりのペースで勉強を進められる。私も本書を一ヶ月ほどかけて読んだ。誰かと「競争」している読書ならば──あるいは年間の読了数を一つでも増やしたいと考えているならば──まったく効率が悪い読み方だ。しかし、そういう読み方をすることでしか得られない何かというのはたしかにある。
そして、どのような対象であれ、そうやって勉強して知識が増えることは、生きる上での楽しさにつながっていく。それもまた勉強の魅力の一つなのである。