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映画『メッセージ』

原作はテッド・チャンによる『あなたの人生の物語』

未知との遭遇と言語学者、という組み合わせなのだが、「異星人の言語をミステリー的に解き明かす」というような骨組みではない。簡単に言えば、サピア=ウォーフ仮説を大胆におしすすめた世界を描いて見せている。

本作が映像化されると聞いて、気になったことが三つあった。1.異星人の姿をどのように描写するのか。2.彼らの言語をどう描写するのか。3.本作のストーリーラインをどう処理するのか。どの点も見事であったと言えるだろう。

異星人は、人間種とはかけ離れていなければならない。人類を不安に陥れる程度には異形のもので、しかもそれはクリアに描かれてはいけないものだ。何かよくわからないもの、という不気味さが常に付きまとっていることが必要なのだ。映像でも、そのように描写されていたように思う。

次に彼らの言語だ。なにせ地球上には存在しない、しかも、まったく処理系統の違う言語。適当に文字を作ればいいというものではない。そこには発明が必要だ。そして、その発明はあった。彼らの言語は美しくすらあった。円は循環する。始めも終わりもない。

その点に関係するのだが、本作のストーリーラインは入り組んでいる。というか、本来のそれはラインですらない。サークルなのだ。原作を一読すると、その「今自分がどこにいるのかわからない」という不安感がぐんぐん強まっていく。そうした体験は、まさに主人公ルイーズが体感しているものでもあろう。この点も、(やや説明的な部分はあったが)うまく処理されていたように思う。

全体的に、原作の特徴をよく押さえ、さらに退屈にならないようにエンターテイメントにも気配りされていると感じた。なかなか難しい仕事だっただろう。

ちなみに、たまたま近くに観た『虐殺器官』の映画にも、サピア=ウォーフ仮説が扱われていて、その呼応が妙に楽しかった。あの仮説は、創作者の心を刺激する要素があるのだろう。

メッセージ [DVD]
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ [ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 2017]

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