何かしらテーマがあって、それに向かってどう研究していけばいいのかについての話はよく見かけるように思う。完全な答えではなくてもヒントは多いだろう。しかし、そもそもどのようにテーマを設定していいのかについてはほとんど話題を見かけない。
そりゃそうだだろう。それは他人に示されるものではないからだ。むしろ、自分の奥底に潜り込むような営みが必要となる。本書は、そうした「潜り込み」を念頭に置いた、「自分の問いの見つけ方」が示されるという点で、際立った一冊だといえる。
ポイントは、「自分中心的」アプローチにある。日本語だと「自己中心的」というのはネガティブに響くが、しかし、自己が中心で何が悪いのだろうか。そもそもそれは個人という人間のごく基本的な感覚ではないか。何か問題があるとすれば、自己が中心にあることではなく、自己以外を見ていないことにあるだろう。
本書はその辺もうまく押さえている。まず第1部では「自分の心の琴線」を探るためのアプローチが紹介される。漠然とした「テーマ」から取り掛かるのではなく、「問い」に焦点を合わせるのが重要なポイントだろう。自分はどんな問いなら心を動かされ、どんな問いならば凪になるのか。それを探求していく。
この時点で、「自分の研究」を始めることは、「自分」の研究を始めることでもあるとわかる。むしろその二つはコインの裏表なはずだ。「自分探し」とは在りもしない理想像を追い求めることでも、恣意的な「ありのまま」を受け入れることでもなく、「自分の問い」を見つけること。すなわち、それが「自分」の研究である(私はこれをセルフ・スタディーズと呼んでいる)。
ちなみに、本書ではすべてのアプローチにおいて記録/ログを残すようにとの教えがある。そうしたログを振り返ることによって、「自分」というものが見えてくるというわけだ。面白いことにこれは、拙著『ロギング仕事術』と通底するメッセージである。ほんとうに、悪いことは言わない。何かを進めるなら、並行して記録を残していくこと。ヘンゼルとグレーテルは、帰り道を見つけるためにパンくずを並べていったが、私たちはログによって、自分自身を見つけることになる。
話が逸れた。
そうやって「自分の問い」を見つけるのはいいとして、そんなことをしていたらタコツボ的になるんじゃないかと思われる向きもあるだろう。そこで第2部では〈問題集団〉と出会うための考え方が紹介される。
〈問題集団〉とは何か?
簡単に言えば、同じ問題意識を共有する仮想上の集まりのことだ。本書ではこう定義されている。
〈問題集団〉とは、問題を中心として形成されるさまざまな知的なつながりや協力関係──研究を進めるうちに見つかったり作りあげたりしていくもの──を想定した概念だ。
注意したいのは「集団」とは呼ばれているが、集団行動を目的として組成されたチームを指しているわけではない。それぞれの個人は、個人として「自分の問題」に取り組んでいるが、その派生として(あるいは研究の必要性として)他の個人との「知的なつながりや協力関係」が築かれている一種のネットワークのことを指している。
意識したことはなかったが、たしかに私にもそういう〈問題集団〉がいる。主にブログやSNSで見知った人たちだ。そうした人たちとのつながりがなければ、今私がやっていることもひどく狭い地点に留まっていただろうことは振り返ってみれば強く感じられる。
問題は、そうした〈問題集団〉がひどく見つけにくいことである。なにせそういう組織に所属しているわけでもないし、バッジをつけているわけでもない。むしろ、日頃のその人の発信活動から「なんとなくそうかな」と予想を立て、発信を辿ることで「やっぱりそうだ」と見つけていくような地道な活動が必要になる。本書では、そうした活動の有効性を高める方策もきちんと紹介されている。
ようするに、「自分の問い」を見つけ、〈問題集団〉とのインタラクションを経ながら、その問いを研究していく、という非常にまっとうな姿勢が示されているのが本書である。私見ではあるが、そうした姿勢は研究職よりも、「在野の研究者」の方がよりいっそう必要になるのではないか。なにせ、彼らは自由にテーマを決められる分まわりの影響を受けやすく、自分だけで進められる分〈問題集団〉を無視しがちだからだ。
だからたとえば、これからブログを始めようと思っている(やや奇特な)人は、本書が提示する「自分の問い」を見つけることから始めてみればいいだろう。それこそが、5年、10年続けられる対象を見つけるうまい方法である。
▼目次:
- はじめに
- 第 1 部 自 分 中 心 の 研 究 者 に な る
- 第1章 問いとは?
- 第2章 きみの問題は?
- 第3章 成功するプロジェクトを設計する
- 第 2 部 自 分 の 枠 を 超 え る
- 第4章 きみの〈問題集団〉の見つけかた
- 第5章 〈分野〉の歩きかた
- 第6章 はじめかた
- おわりに 研究者としての未来、次に待つものは?