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映画『虐殺器官』

凝縮版というか、濃縮版という印象だ。2時間ばかりの尺に、原作のエッセンスが詰め込まれている。

言語と隷従、そして自由の対価。私たちが見えていないものと、見て見ぬ振りしているもの。

もちろん、恐ろしいのは虐殺の文法ではない。むしろひっそりと示されるカウンセリングの文法である。というか、それは同じものなのだ、というメッセージこそが、一番怖い。

それは、本作では一番極端な形(子供を殺せるかどうか)で描かれているが、もしそれが「人が煙草を吸うかどうか」であれば、どうだろうか。そうした欲求がカウンセリングによっておさまるとき(そしてそのカウンセリングが政府の命によって実施されるとき)、人間にとって大切な何かが損なわれているのではないだろうか。それとも、そうしたものを損なわない限り、我々人類に平穏の地は訪れないのだろうか。これは次作の『ハーモニー』にも響いているテーマである。

なかなか考えさせられることの多い作品なのだが、なにしろ駆け足であり、原作のあのじわじわとシェパード大尉が浸食されている感覚は、アップテンポすぎて味わえない物足りなさはある。が、シェパード大尉(CV:中村悠一)と、ジョン・ポール(CV:櫻井孝宏)は見事なキャストだと言えるだろう。特に櫻井孝宏の声が持つ、あの「悪なのか善なのかはわからんが、ともかくいびつなことを考えているに違いない雰囲気」は圧倒的である。

人の頭の中にこそ地獄があるのならば、天使と悪魔もまた同じ場所に宿るのだろう。それはどうしようもない救いであり、どこにもいけない呪いでもある。

虐殺器官 [DVD]
監督:村瀬修功 原作:伊藤計劃 [アニプレックス 2017]

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