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『魔王学院の不適合者』(秋)

タイトル的に「魔法科高校の劣等生」を彷彿とさせるが、最強チートものという点では同じだが作品の雰囲気はずいぶんと違う。

その違いは、「劣等生」がSF寄りなのに対し、こちらがファンタジー寄りである、という点ばかりではない。根本的に違うのは、主人公の心性だ。

二人の主人公は世間からズレている。が、そのズレは、社会の方がずれているのか、主人公の方がズレているのかの二つのパターンを持つ。本作は前者で、「劣等生」は後者だ。「劣等生」の達也は、基本的に壊れている。圧倒的な力を持ちながらも(あるいは持つがゆえに)、彼の心の機能は常人のそれとは大きく異なっている。そこに、危うさと怖さがある。

その点、本作の主人公は優しく、人道的ですらある。凶暴性がないというのではない。残虐なことをしないわけでもない。それが必要なことならば毅然と行うだろうし、そのことに嫌悪感も感じないだろう。が、そこには最低限対象を人間(本作なら魔族)として捉える認識がある。達也は、基本的に妹以外はどうでもいい。瑣末なことだし、路上の石を眺めるのと同じような視線で見つめる。この違いは大きい。

その意味で、本作は安心して読める作品である。魔王が主人公だが、ピカレスク小説の趣は小さく、むしろ純粋なヒーローものの印象が強い。絶対的王者が、カギ括弧付きの「窮地」を楽しんで乗り越えていく。それを読者は楽しむことになる。

こうしてみるといわゆるチートものでもいろいろな書き方があることがわかる。細かい設定も違えば、世界観も違う。その意味で、テンプレ批判はあまり用を為さない。テンプレをいかに料理するのか、テンプレをどう使うのか。そこに作者の手腕が活きてくるわけだ。本作は、うまく料理されていると言っていいだろう。

それはそうと、エゴサーチが大変そうな著者名だなと個人的には思ってしまった。まあ、どうでもいい話ではあるのだが。

魔王学院の不適合者 ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~ (電撃文庫)
秋 イラスト:しずまよしのり [2018]

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