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映画『TENET』

クリストファー・ノーラン監督の新作。

時間がテーマで、過去と未来と現在の関係が焦点になっている。

タイトルの「TENET」は主義・信条という意味だが、当然これは回文であるのでカタカナにしてしまうと、いまいち伝わらなくなる。

この回文は、時間の輪廻(因果律からの逸脱)を意味してもいるだろうし、あるいはNという中心に向けて、双極のTからベクトルが同じように迫っていると見ることもできる。現在は、未来と過去からの「挟み撃ち」にさらされているのだ。

本作の、物語的な起承転結はごくありふれたヒーロー危機一髪ものではあるが、しかし筋はひどくややこしく、見終わった後も釈然としない部分が多い。しかし、それは不満というのではなく、単にもう一度見たくなる気持ちの発露として現れる。その上、なんとなくこの後の世界もイメージさせるのだから、「もしかして、続編も」と期待させるのだから、対したものである。

全体のメッセージとしては、現在が挟み撃ちの存在でありながら、それは常に主役足りえる、ということと、現在と隔たった時間とをつなぐ「記録」の役割、という点があるだろう。

もう一つ、印象的な言葉が「アルゴリズム」である。本作では、アルゴリズムはかなりの悪役だ。少なくとも、大きな力の象徴として描かれている。

なぜ、アルゴリズムがそれほど強力なのか。もちろんそれは、因果が固定されてしまうからである。入力Aに対して、固定された出力Bを返す存在。それはどこまでもリバースエンジニアリングが可能であり、結果的にそれは、「何もなかったこと」と等しくなる。すべてが、微細まで還元できてしまうのだ。

そもそも、結末が定まった世界の中で、意志の役割は希薄どころか無意味なものでしかない。だからこそ、川原礫は、それに対峙する力として「シンイ」を置いた。この世界をオーバーライドするもの。望む結果から、事象の理を乗り越えていくもの。

「馬鹿馬鹿しい」

アルゴリズムならきっとそういうだろう。さて、あなたはどうだろうか。

幸い、時間に関与する力がなくても、私たちは記録が使える。未来へメッセージを送る装置だ。その力は、きっとアルゴリズムを超克するだろう。その意志と共に。

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