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『ウソはバレる』(イタマール・サイモンソン、エマニュエル・ローゼン)

2016年11月29日、DeNAが運営する医療情報サイト「WELQ」が非公開になった(※参照)。

さて、この事態をどのように捉えればいいのだろうか。

イタマール・サイモンソンとエマニュエル・ローゼンによれば、今後は企業の「ブランド」はさほど価値を持たず、「消費者」は自分で情報を集め、企業が提供する「作られた価値」になど惑わされることなく商品を選び、またその評価について発信するようになり、結果として「ウソはバレる」ようになる。

「WELQ」の全記事非公開は、まさにこの「ウソはバレた」状態である__と言えるだろうか。どうにも難しさが残る。第一にこれが「ウソはバレた」状態だったとしても、ここにまでにはかなりの時間がかかっている。この間に真偽の怪しい情報は拡散され、その間「WELQ」は広告収入を上げ続けていた。つまり、ウソはバレるかもしれないが、そこには時差がある。

また、この「WELQ」というサイトは、DeNAという企業のブランドに乗っかっていたわけではないことはたしかだ。その意味で、著者らの指摘は正しい。が、反面そのサイトが閲覧されていたのは、Googleの検索結果の上位に表示されたからであり、それは「ブランド」が持つ権威がそれぞれの企業からGoogleへ委譲されたことも意味する。

逆に言えば、この事件はDeNAのブランドにはたいした傷を与えず、仮に与えたとしても何か別のサイトを作れば__そして、そこでSEO対策を頑張れば__また、新しい利益を生み出すことができる、ということでもある。Googleの導きにさえ背かなければ、だ。

たしかに、昔ほど「ブランド」が持つ力は強くない。「〜〜だから大丈夫だろう」、といった盲目的な安心感は減退し、それよりも「まずググる」という行為が率先して出てくるようになっている。その状況は、企業が怒濤のPR攻勢で価値を作っていたときとは違う。しかし、ググる行為そのものは、客観的評価を入手することとイコールにはならない。Googleのアルゴリズムが何を示すかに依ってしまう。

著者らは、そうした情報を提供するプラットフォーマー(アグリゲーター)も、歪んだ情報が多くなると利用者が離れてしまうので、健全さを保つために動くはずだから、心配しなくて良い、と書いている。が、本当にそうだろうか。Amazonは作られたレビューを取り除くのに必死になっている。が、すべてを除去できているかというと怪しいだろう。仮にそれが実現するにしても、相当な時間がかかるはずだ。つまり、ここでも時差がある。あるいは単なるいたちごっこで終わるかもしれない。

さらにたちの悪いのがGoogleである。それはググるという動詞からもわかる。もはや大抵の人は、「検索エンジン」を選択すらしていない。情報を入手する=Googleを使う、なのだ。日本ではそれがYahoo!を検索する、となっている人もいるだろうが、選択していない、という点では事情は同じである。そのような状況では効果的なフィードバックは生まれず、似たような状況がずっと続く可能性すらある。なんなら企業の「自浄精神」頼みになってしまうのだ。

結局、「ウソはバレる」かもしれないが、そこには時差が伴うし、仮にバレても、いつでも新しい仮面をつけて似たようなことを再スタートさせられる。そう考えると、「ブランド」の権威が相対的に減少するのは本当に良いことなのかどうかも怪しくなってくる。

これは2010年代の後半において、重要な問題となっていくだろう。

ウソはバレる
イタマール・サイモンソン、エマニュエル・ローゼン[ダイヤモンド社 2016]

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