映画『オデッセイ』の原作。
基本的なストーリーラインは映画と同じ。映画版は、尺の関係で端折られている話が多かったので、原作を読んで「そうか、なるほど」と納得できることは多い。あと、ラストのピックアップ部分はかなりドラマチックに盛り上げられていたことがわかった。映画メディアとしては必要な修辞なのであろう。
さて、小説の大半は、他に登場人物がまったく出てこない主人公マークの一人語りである。いわば、手紙形式の物語というやつだ。
普通に考えれば、平坦な描写になりそうなのだが、非常に軽い文体と、ゴリゴリのSF知識のパッチワークで見事に読ませてくれる。また主要な登場人物は少ないものの、地球サイドと宇宙サイドという別のステージを用いながら、お互いに微妙なコミュニケーションが成立するという状況を使って、うまくサスペンス的盛り上がりを作り出している。視点の切り替えも絶妙だ。
しかし、なんといっても本作で素晴らしいのはマーク・ワトニーである。彼の行動哲学は称賛に値する。こんなキャラクターが生まれたら、もう半分ぐらいは作者の勝ちと言えるだろう。
Tags: