ノルウェイの作家の作品。
実に不思議な小説である。
タイトルからして意味深だが、実は即物的なタイトルなのだ。著者にとって18冊目で、11作品目の小説、ということらしい(訳者あとがきより)。なんだそりゃ、という気がしないでもないが、タイトルから実体を掴ませない意図があるのかもしれない。
読了後に、じゃあ、君はこの本にどんなタイトルを付けるんだい? と尋ねられても、うむむと唸るしかない。ある意味では適切なタイトルだ。
つかみどころ、というものがほとんど存在しない小説である。場面場面がスルりスルりと手のうちからこぼれ落ちていく。小説の立てつけ自体が__たとえば文体が__シンプルでむしろ古風な分、この小説の構造的奇妙さがいっそう浮き立つことになる。
小説を代表とする物語を読むとき、本を読み慣れた読者なら大抵何かしらのフレームワークを(無意識にでも)思い浮かべるだろう。この人が主人公で、この人が悪役で、あの人も悪役で、でも後半はいい人になって登場して、ここが物語の中心的な舞台で……、といったものがいっさい機能しない小説である。その意味で、前衛的とは言えるだろう。でも、そのこと自体に何か意味があるのかもわからない。
ただただ卓越したストーリーテリングに飲み込まれていくばかりだ。別々のお話ながら、通底するテーマを用いている短編小説集があるが、構造的にはその逆のような感触も受ける。
とにかく奇妙で不思議な小説だ。わかりやすいエンターテイメントを期待しているなら、ガッカリするだろう。しかし、独特の作品であることは間違いない。
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