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『管理ゼロで成果はあがる~「見直す・なくす・やめる」で組織を変えよう 』(倉貫義人)

方向性としては、『NO HARD WORK!』に非常に近い。

トップダウンの管理をギリギリまで抑制し、強制的に従業員をモチベートするのではなく、その人の「やる気」を阻害しないような環境を作ること。それをトップマネジメントの仕事だと認識している点は、ドラッカーの組織論に近いだろう。「知識労働者は、すべてエグゼクティブ」なのである。

単純労働の積み上げで成果が生まれる産業ならばともかく、知識労働・知的生産は、頭の中から価値を生み出すものであり、それは働き手の意欲と強い関連を示す。大量生産型のマネジメントと同じやり方が通用する道理はどこにもない。

現代における付加価値が、大量生産によるコスト低減ではなく、知的生産によって生まれるならば、組織の在り方そのものからマネジメントしていかなければならない。

その意味で、本書が提示するのは非常に現代的なマネジメントの視点だ。というか、はるか以前からドラッカーが指摘し、そのドラッカーが経営者の間で愛読されていたにもかかわらず、こうしたマネジメント手法が現代になるまで「現代的」だと認識されてこなかった事実に唖然としてしまう。

かつての高度経済成長は大量生産型の産業によって支えられていた。しかし、もうその時代は過ぎ去りつつある。次に待っているのは、多様化の時代だ。多様化の時代では、必要とされるものが多様化し、働き手が求めるものが多様化し、働き手が提供できるものが多様化する。それに応えられる組織が、本来はマネジメントされていなければいけない。

しかし、かつての栄光があまりにも輝きすぎたのか、何かを改変しようとする力よりも、既存の構造を維持しようとする力の方が強く働いてしまった。結果、組織体系・組織の在り方はマネジメンとされる対象ではなく、右に倣え(あるいは過去に習え)的な対象と化す。それでは、変化に対応できるはずもない。

本書はその意味で、現代的であり、未来的でもあるのだが、『NO HARD WORK!』との違いは、そこに至るためのプロセスを3段階に規定している点にある。つまり、一気にその形に到達するのは難しいだろう、という現実的な想定がある。これはまったくもって正しいだろうし、また実際的でもあろう。

実際『NO HARD WORK!』でも、完成形にすぐに至ったという話はなく、むしろ試行錯誤の連続だったと何度も語られている。それはそうだろう。あらゆるデザインが試行錯誤を経て作られるのだ。いまだないものを作るために、試行錯誤は欠かせない。それは組織体系についても同じである。

むしろ「こういうやり方が未来的だ」などとうそぶいて、そのやり方を従業員に押しつけるのは、トップダウンの再来でしかない。必要なのは、何が作用し、何が作用しないのかを見極めて、調整を繰り返していくことである。

私も、同じ視点で拙著に「デルタ状の実践」という概念をおいた。完璧なノウハウに自分を合わせていくのではなく、自分に合わせてノウハウを調整していくこと。そのようなやり方が、多様化の時代では求められる。段階を踏まないあらゆるやり方は、結局のところトップダウンと同じなのだ。

最後になるが、本書がアメリカの組織の話ではなく、日本の組織の話であることには非常な期待が持てる。こういう組織が、つまり組織体系そのものをマネジメンとしていくという発想を持つ組織が増えれば、人と「働くこと」の関係もまた徐々に変わっていくだろう。当然それは、「生きること」の変化にもつながるはずだ。

管理ゼロで成果はあがる~「見直す・なくす・やめる」で組織を変えよう
倉貫義人 [技術評論社 2019]

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