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アニメ『魔法使いの嫁』

ヤマザキコレ原作のアニメ化作品。静謐で、美しく、そして悲しい物語だ。

主人公のチセは、異形のものを忌避しない。骨の怪物にしか見えないエリアスや、古竜のネヴィンを「あの人」と呼ぶ。しかしそれは、彼女が博愛主義であることを意味したりはしない。むしろ彼女は「人間」という括りを気に掛けていないのだ。彼女にとって「人」とは、特別にこだるものではない。配慮するものでもない。だからこそ「人」を気軽に使う。

もし、人間存在について強いこだわりを持つならば、異形の怪物を「人」扱いはしないだろう。しかし、チセは、人間存在に仲間意識もないし、そこに所属しているような感覚も持たない。だからこそ、いっそあっけらかんと「あの人」と呼んでしまう。そこに悲しい響きがあるのだ。

しかし、その欠落がある種のものたちに居心地の良さを与える。彼女は何かを惹きつける。だからそれは、意図とは別としても、博愛主義な振る舞いではあろう。人間存在がぽっかりと抜け落ちた博愛主義ではあるのだが。

世界は彼女を拒絶し、彼女もまた世界を拒絶した。しかし、その世界は、彼女が知る限定的な世界でしかなかった。世界の一部は、世界のすべてではない。そのことを知った彼女は、籠の中から差し込む日の光を感じるようになり、飛び立つ準備を整えた。待ち構えるのは、決して安寧で平穏な世界ではないのだろう。しかしそれは、彼女が拒絶しなかった世界ではある。彼女が受け入れた世界ではある。

一番大切なことは、まさにそのことなのだ。

魔法使いの嫁 第1巻(完全限定生産) [Blu-ray]
監督: 長沼範裕 [2017 松竹]

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