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「警告してやる声が要る」池谷和浩

(『ことばと Vol.8』収録)

主人公の仕事や日常が綴られていく。細かいディティールとキュートな表現が魅力的だ。

しかし、不穏だ。不穏なのだ。

描写されるのはひとりの人間のよくある日常である。しかし著者は、ごく僅かな描写を差し込むだけで作品全体に影をつける。もちろん、タイトルからしてその不穏さは伝わってくる。

どのような描写がそのような効果をもたらしているのかはここでは言及しない。ここ数年をこの日本で過ごしている人ならば、すっと通り過ぎたとしても、どこかしら必ず残る──そして不穏さを醸し出す──部分があるはずだ。

いくつも好きな表現が出てくる。「猫の寝癖は全身につく」とか「散歩そのものをする」とか。この夫婦と猫一匹の日常をずっと眺めていたいとすら感じる。

しかし、不穏なのだ。

むしろ細かいディティールが綴られるほど、その不穏さは深い痛みの予兆となる。

というわけで、やっぱり私は著者の作品が好きである。

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