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『哲学史入門』シリーズ(斎藤哲也編)

「哲学史入門」と銘打っているが、教科書的に通史を眺める本ではない。もちろんそうした情報を得るためにも有用な内容ではあるが、それ以上に、「哲学」という知的な営みに取り組んでいる研究者の熱気に触れられるという意味で、本書は正しく「哲学史」入門であろう。

人はある日何かに導かれるように哲学という学問の門をくぐる。門の内側で行われている催しの熱気にあてられたかのように。

現代に日本における「勉強」というのは、機械的に専門用語を暗記し、それをペーパーの上に間違いなく書き写すための訓練のような無機質な行為だと捉えられているかもしれないが、学問というのはある種の熱気を持った生きた人間が、抗いがたい衝動やときに狂気に見えるようなエネルギーを持って営んでいるということが感じられるのが本書である。

三巻のシリーズで、古代ギリシャから現代までを追いかける形になっている。構成自体はそれぞれの巻が独立して読めるようになっているので、興味がある巻から手に取ってみるのもいいだろうし、素直に1、2、3と読んでいくのもいいだろう。

目次は以下の通り。

哲学史入門〈1〉古代ギリシアからルネサンスまで
序章 哲学史をいかに学ぶか(千葉雅也)
第1章 「哲学の起源」を問う―古代ギリシア・ローマの哲学(納富信留)
第2章 哲学と神学はいかに結びついたか―中世哲学の世界(山内志朗)
第3章 ルネサンス哲学の核心―新しい人間観へ(伊藤博明)

哲学史入門〈2〉デカルトからカント、ヘーゲルまで
第1章 転換点としての一七世紀―デカルト、ホッブズ、スピノザ、ライプニッツの哲学(上野修)
第2章 イギリス哲学者たちの挑戦―経験論とは何か(戸田剛文)
第3章 カント哲学―「三批判書」を読み解く(御子柴善之)
第4章 ドイツ観念論とヘーゲル―矛盾との格闘(大河内泰樹)
特別章 哲学史は何の役に立つのか(山本貴光、吉川浩満)

哲学史入門〈3〉現象学・分析哲学から現代思想まで
第1章 現象学―その核心と射程(谷徹)
第2章 分析哲学のゆくえ―言語はいかに哲学に対象となったか(飯田隆)
第3章 近代批判と社会哲学―マルクスからフランクフルト学派へ(清家竜介)
第4章 フランス現代思想―二〇世紀の巨大な知的変動(宮﨑裕助)
終章 「修行の場」としての哲学史(國分功一郎)

まず構成がうまい。〈1〉では千葉雅也、〈2〉では山本貴光、吉川浩満、〈3〉では國分功一郎がそれぞれ登場し「哲学史を学ぶこと」についてややメタな視点から語っていて、どれも面白い。これを読むだけでも十分おつりがくる感じがする。

また、編者がそれぞれの研究者にインタビューしたものを「聞き書き」するのが本編なのだが、そこに入る前に概念の予習がイントロダクションとして行われている。わかっていれば読み飛ばせばいいし、詳しく知りたいならじっくり追いかけておくと本編の理解度が深まる。

もちろん、「本書を読めばカント哲学がばっちり理解できる」、ということはさすがにない(どんな本でもありえないだろうが)。しかし、それぞれの哲学者がどのような文脈において受容されてきたのかという感触を掴むことはできる。その上で、より深く知りたい哲学者や概念が出てきたら合わせて紹介されているブックガイドを芋づる式にたどっていけばいいだろう。

また、教科書的な知識の整理で言えば、『一度読んだら絶対に忘れない哲学の教科書』を合わせて読むと、より全体的な見通しが得られるだろう。

私に関して言えば、ますますカントのことが知りたくなったのと、「フランクフルト学派」についてまったくぜんぜん知らなかった、ということが知れたのが収穫だった。

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