ゆうびんやさんと大橋悦夫さんのポッドキャスト・インタビューを書き起こして、加筆修正した一冊。テーマはタイトル通り「日記」。
日記という身近で馴染みのツールを、しかしとことん嵌まり込んでいる二人が語り明かすと、ここまで面白くなるという興味深い本である。
内容については、著者らを交えてポッドキャストを行ったので、そちらを参考にされたい。
第五十五回:大橋さん&ゆうびんやさんと日記について by うちあわせCast • A podcast on Anchor
私がすごく面白いと思ったのだが、大橋さんの(Evernoteの)タグのつけ方である。感情を表すためのタグとして「Cool」と「Error」が設定されているらしいのだが、後者はどう見ても感情ではない。しかし、だからこそ意味があると感じた(その話はポッドキャストでした)。
こうしたタグづけの按配によって、記録がネガティブ方向にずんずん進んでいかない制御が行われている。記録はフィードバック発生装置であり、それは(大橋さんの言葉を借りれば)轍を生み出すのだから、ポジティブな方向にもネガティブな方向にも進む可能性を持つ。だからこそ、後者に注意を払うのは大切なわけだ。
そこで本書のタイトルに戻ってくる。本書で問われているのは「日記の楽しみ方」である。日記で成果を上げるための方法ではなく、日記でセルフマネジメントを貫徹する方法でもない。このタイトルづけが可能な点が、セルフパブリッシングの強みであろう。ビジネス書ではなかなかこうはいかないはずである。
でもって、その「楽しみ方」(楽しさ、ではない)こそが重要なのだ、書くことにある楽しみ、読み返すことにある楽しみ。書いたことが役に立つ楽しみ。日記には(もっと言えば広義の記録には)そうした楽しみが満ちあふれている。だからこそ、それは続けていける。
日記は苦行ではないし、苦行であってはいけない。書いていて虚しさや辛さを憶えるなら、その日記は機能していないと言える。さっさと書くことを変えるか、しばらく休むべきである。少なくとも、そうした苦行をくぐり抜けた先には何も待っていない。ただ虚無が漂うだけである。
おそらく重要なのは、楽しむためには受け身であってはいけない、ということだろう。むしろ前向きなコミットメントが、楽しさを引き連れてくる。そして、そのコミットメントが、まさに「役立つ」を後から連れて来るのだ。ここに、楽しさと実利の両立がある。
とは言え、実利がやってくるのは常に後からである。はじめからそれを期待していると肩透かしを食らうだろう。それよりも日々の実践を、そしてその改良の道を楽しむことだ。その先に「自分の日記」が待っている。そんな風に思う。