医者や看護師の仕事を主題にした作品は多いが、薬剤師は珍しいのではないか。しかも、病院薬剤師である。
私は、30代後半までは健康優良児であり、病院のお世話になることがほとんどなかった。当然、薬局・薬剤師のご厄介になることも同様だ。しかし、40歳手前から、いろいろな病院にいくようになり、結果としてたくさんの薬局にもお世話になった。お薬手帳には、いろいろな薬局のシールが貼ってある。病院の中にあるところ、病院のすごそばにあるところ(門前薬局と呼ぶらしい)、そしてドラッグストアに併設されたところ。処方箋を渡して薬を受け取るという同一の行為でも、それぞれに顔つきが異なる。
頻繁に通うようになるまでは、薬剤師の仕事とは「処方箋を見て、薬を持ってきて、それを袋に詰める」だけの仕事だと思っていた。事務的な作業だが、扱う商品が商品なので、専門的な資格が必要になる──そんな理解だ。
しかし、本作を読んでいるとその理解がいかに甘いのかが痛感される。薬剤師は医者の処方に意見できるし、その意見によって処方が変わることもある。患者の状態や他の薬の塩梅を見て、適切な薬を決定する。それが薬剤師の仕事である。
それに単に薬を詰めるといっても、在庫の箱から出してきてそのまま渡すだけではない。さまざまな薬を飲みやすいように一つの袋にまとめたり、あるいは半錠ずつ飲めるように割ってからパッケージングしたりもする。そう、あの透明のビニールに包まれた袋は、薬剤師さんによってパッケージされているのだ。頭が下がるばかりである。
というわけで、本作は、医療の現場で重要な位置付けを持っていながら、それほど注目されていない(unsungとは、詩歌によってほめたたえられていない、という意味だ)薬剤師の仕事を取り上げた作品である。
医療の話なので少し重い部分もあるが、全体的に読みやすく、薬剤師さんの仕事に敬意と興味が持てる作りになっている。
原作:荒井ママレ, 医療原案:富野浩充 [2018 コアミックス]