面白い記事です。序盤を乱暴に要約すれば、
普段目立たないブログがあるとして、そのブログの記事が人気を集めたらそれはそのテーマが支持されたってことで、企画会議でGoサインもらったのと同じじゃね?
ということでしょう。
まずこの段階で書きたいことがちょっとあるのですが、それは後回しにして記事の続きを追いかけていくと、仮にそうして支持されたコンテンツであっても、電子書籍化するにあたって「些細なミス」があると商業敵にはうまくいかないかもよ、でそれってどんなミス? と続けられています。
- 作るのが遅すぎる
- 書籍のタイトルがあおりすぎてる
- 表紙がわかりつらい
- 本の説明文がわかりにくい
- 記事の文章を全部コピペしている
- 出し惜しみする
まっとうな指摘でおそらくはその通りでしょう。でも、もう一点あって、それは「価格のミスマッチ」です。つまり、いくらの値段をつけるのかってことですね。もちろんマーケティングの4Pにはばっちり価格(Price)が含まれているのですから、これは結構大きな問題です。
たくさんの人に読まれたいのなら、できるだけ安くすればいいわけですし、それを突き詰めれば無料へと辿り着きます。でも、それは安易な結論ですよね。じゃあ、いくらならいいのか。いくらなら自分と読者さんが納得・満足できるのか。このジャッジメントはいくらブログをやっていても掴めません。それこそたくさん本を作り、売っていく中で身につけていくしかない感覚です。でもって、その感覚は常に「読者」というものを捉えておく必要があります。
結城浩さんは『数学文章作法』シリーズで、「読者のことを考える」をモットーとして挙げられていますが、実は書籍のタイトルや表紙、説明文や内容のクオリティについても同じなのです。それらは「読者のことを考えて」作られているか。自己満足で終わっていないか、何かを言い訳にして手抜きで終わらせていないか。そこが鍵を握るのです。でもって、それは価格設定においても同じです。
というわけで、この辺りの話はある程度ノウハウに落とし込むことはできるにしても、実はそれだけで終わる話でもありません。読者のことを考えて、自分の頭を動かすこと。それが肝要です。
で、飛ばした話題に戻りましょう。記事にはこうあります。
ブログの記事=企画書です。
- これこれこういう、内容で本書いてみたいんだけどどう?
- 人気エントリー入り
- 本を書く
- 売れそう
まあ短絡的と言えば短絡的ですが、これからはこれが来る! と根拠もなく書くよりは「エントリー入りしてPVが2日で計1万、ハテブが90以上、SNSではこんだけの反響があるので、コメントとSNSの意見を参考に適宜調節入れれば売れる」
と言えるのでよっぽど説得力があり売れるでしょう。
「PVが2日で計1万」とあります。これって、どんな読者なのでしょうか。いいですか、もう一度書きます。これって、どんな読者なのでしょうか。
たしかにこれは「興味」を示すゲージではあるでしょう。でも、「興味がある」=「お金を払う」ではありません。
どこかで火事が起きれば、野次馬たちがたくさん集まってきますね。でも、火事場の近くに入ろうとしたら「ここから先は見物料がかかりまっせ。500円」と言われたらどうでしょうか。それでもまだその人たちは火事場に近づこうとするでしょうか。
はてブするのも、いいね!を押すのも、「後で読む」タグを付けるのも、すべては無料です。そして、無料だから(=有料じゃないから)興味を持っているということが充分あり得るのです。
もちろん、興味を持っている人の中には、お金を払うつもりのある人も一定数はいるでしょう。でも、「無料だから」という関心軸の場合は、その割合は非常に低いと考えて間違いありません。高く見積もっても、数パーセント台です。二桁にいくことはまずありません。
だから、ネットの「人気エントリー」から電子書籍の企画を考える場合は、母数を相当大きく取らないと商業的な成功は難しいでしょう。「無料だから面白い」と「有料でも面白い」には違いがある、ということは念頭に置く必要があります。その媒体の変換には、大きな溝があるのです。
だったら、ブログで記事を公開して、その反応を見て電子書籍にするって意味ないの? みたいな反論が起きますよね。でも、私『KDPではじめるセルフ・パブリッシング』という本でその方法を提唱しています。で、私はそういう本を実際に何冊も作っています。じゃあその違いって何なの、という話になるかとは思いますが、実はそれらの本に収録された記事は「人気エントリー」ではないのです。
そもそも私の本家ブログであるR-styleは、はてブとかまったくつかないので「人気エントリー」がほとんどありません。ノウハウ系の記事はたまにつきますが、それだけです。よって「人気エントリー」ドリブンな企画案はほとんど生まれようがないのです。
だから私は、一度「読者アンケート」を取りました。Googleフォームを使ってのアンケートで、「印象に残っている記事」「好きな記事」を自由記入してもらったのです。選択肢ですらありません。だから、そこに書き込める人はなかなかにR-styleというブログを読んでいる人ということになります。
そういう人たちが名前を挙げてくれた記事を読み、そして自分でも過去エントリーを一通り読み返して、最終的にはすべて「自薦」でのセレクションとなりました。言い換えれば、書いてから時間が経っても「うん、これは面白い」と他の人が覚えている(なにせ思い出して書いてもらっているのです)、そして自分もそう思える記事をチョイスしたのです。
電子書籍をロングテールな媒体だと考えるなら、このやり方が効果的だろうと、個人的には思います。もちろん、短期的に大きな売上げを作って、あとは売れなくても知らない、というスタンスならば話は別であることは言うまでもありません。その場合は、とにかく母数を稼いで、後はスピード勝負です。出版社さんの雑誌とかと同じですね。
もう一つ、逆からのお話もしておきましょう。
たとえば、あなたが黒髪ロングのメガネっ娘好きだとしましょう(あくまで仮説的な設定ですよ)。じゃあ、自分のタイムラインに流れてきたメガネっ娘の画像をすべてリツイートしたり、いいね!したりするでしょうか。まあ、人によってはするかもしれませんが、あまり他人に見せたくない「興味」というのもやはりあるでしょう。でも、実はその「興味」はお金を払っても満足させたいと思うものかもしれません。
で、ネットの「人気エントリー」だけを指標としているとその辺を見逃してしまいます。
というわけで、どういう人が読者なのか、その読者はどういうメディア消費をし、どんな活動をしているのか、ということまで考えてブログを公開実験メディアとして使うのはありだと思います。
One thought on “ブログの記事=企画書、だとしても”