前巻の続き。
さて、どうにも盛り上がらないな、というのが第一印象だ。主人公の視点がキリトからロニエとティーゼに移動していることが、その要因の一つではあろう。
とは言え、彼女たちに問題があるわけではない。ごく普通のファンタジーものがそこにはある。が、彼女たち自身はこの世界の中の人間であり、キリトのような外部者の視点は獲得していない。当人のキリトですら、「外の世界」のことはほとんど考えていないようにも思える。その意味で、やはり普通のファンタジーに留まっていると言えよう。SAOらしい二重構造が欠落しているのである。
が、それだけではない。
二重構造が欠落しているのならば、同シリーズの『プログレッシブ』だって同じである。あの作品は、ほとんどひねりのないファンタジー(つまり+SFされていないゲーム系ファンタジー)なのではあるが、SAOらしさに溢れている。この差異は、一体どこにあるのだろうか、ということを少し考えてみると、一つの答えが出てくる。それは黒の剣士キリトの存在だ。
作中では、アスナがキリトに対して大人っぽさを感じる描写がある。そしてたしかに、本巻のキリトは、さほど無茶はしていない。無茶するにしても配慮ある無茶である。彼はもはや代表剣士であり、その自覚も持っている。だから、作中においても、どこか保護者的立ち位置にある。言い換えれば、冒険者でもないし、異名を持つ剣士でもない。その点が、どうにもSAOらしくないのだ。
逆に言えば、SAOは、黒の剣士キリトというキャラクターの存在によって、その魅力が支えられてきたのだと言えるかもしれない。ある意味で、本巻はその発見のきっかけとなった。
では、キリトの魅力とは一体なんだろう。それについては稿を改めて書いてみたい。
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