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『オリンポスの郵便ポスト』(藻野多摩夫)

素敵だ。実に素敵な物語だ。

タイトルと表紙から、ほんわか日常系ライトノベルかと予想していたが、実際は違った。火星を舞台にした、ファンタジー系SFである。しかも、SFはガチ寄り(バトルもあるよ)。

火星のオリンポス山にある郵便ポストに改造人類・クロを「配達」する主人公エリス。当初は、火星を舞台にしたロードームービー風展開を見せるのかと思っていたし、実際冒頭はそのテイストで進んでいくのだが、二人の過去が語られるにつれ、そんな単純な物語でないことが明らかとなる。

SF要素もそつなくまとまっており、それだけでも十分楽しめるのだが、それらをすべて取っ払ってみると、土台として残るのは人の心や強い思い、あるいは矜恃といったものだ。それぞれの登場人物は、さまざまな形で何かを願い、何かを望み、何かを託そうとしている。自分の在り様を、自分で決めようとしている。そして、それらをつなぐ「手紙」の存在。

もはや人間とは呼べない存在を対比させることで、むしろその中にある人間性、つまり何かを強く願うその心を浮かび上がらせる手法は見事と言っていいだろう。派手なエンタメ要素はないし、鋭い萌え要素も欠落しているが__その意味で電撃文庫色は薄い__、そんなことはまったく気にならない。一つの作品として、しっかり読後感が味わえる良作である。

オリンポスの郵便ポスト (電撃文庫)
藻野多摩夫 イラスト:いぬまち [KADOKAWA 2017]

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