私は『ミナミの帝王』とか『クロサギ』といったお金と法律に関する話が大好きなので、本書も楽しく読めた。
しかも、「えっ、こんなにブッこんで大丈夫?」と心配になるくらいマネー系の話が盛りだくさんである。詐欺やらマネーロンダリングのノウハウやらが満載だ。それでもストーリーにもたつきが感じられないのは著者の手腕だろう。表紙カバーの色合いからもわかるように、それらは全般的に黒い(=違法な)話であることは言うまでもない。
「特殊債権回収室」(通称トクシュー)という政府肝いりの民間企業が、さまざまな現場を飛び回って犯罪収益を回収していく。雰囲気は警察もの・探偵もののハードボイルドが近い。なにせその回収室に所属しているのは、元犯罪者たちなのだ。それもかなりの精鋭である。
ただし、回収は淡々と行われる。主人公の栴檀が異能すぎるからだ。彼は一目見た数字を決して忘れない。そんな人間が帳簿をチェックしたらどうなるか。よって、一つひとつの回収には、「困難を乗り越えて解決」という痛快さはない。が、実はそうした事件たちは、より大きな事件の足音に過ぎないことが徐々にわかってくる……
という感じで、最後まで飽きずに楽しめた。少し「詐欺被害啓蒙小説」的な位置づけでもある。続編に含みを持たせた終わり方だったので、続きにも期待したい。
吉野 茉莉[KADOKAWA / メディアファクトリー 2016]
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