物語は、小学六年生のソウイチくんから始まる。一見、お子様向け作品のような文体で話は進められていくのだが、もちろんそのまま終わるはずもない。予兆のような不吉さが影をまとい、その影は予想通りに実体化する。第一章はそこで幕を閉じる。
続く第二章では、時間的・視点的飛躍がある。しかし、それに戸惑うことはない。文体の切り替えのメリハリが利いているからなのだろう。それと共に、「ああ、こういう感じなのね」と小説構造の理解も進み、第三章以降がどうなっていくのかの予想もつく(実際その通りに展開する)。その意味で、事件自体は第一章で発生するのだが、本作品の躍動感はむしろこの第二章で始まると言ってだろう。
著者は、視点を動かし、時間を不連続に飛び越えることで、むしろ「たった一つのこと」に光を当てている。ややこしい入れ子構造はどこにもないし、群像劇でもない。それでも本作には不思議なほどの立体感がある。あるいは、一続きであるはずのものを、不連続に眺めることで、異なった風景を立ち上げているとも言えるだろう。
非常に凝った作品だが、それは技巧を誇るというものではなく、むしろ著者が語りたいことを語るためには、こうした構造が必要とされた、ということなのかもしれない。「ソウイチくんの挫折と成長ストーリー」ではこうはいかなかったはずだ。
それとは別に、本作で驚いたのは、短編作品集のようなリズムを用いながら、それでいて長編(あるいは中編)の物語を紡いでいる点だ。私はこれを電子書籍作家ならではのリズムだと感じる。短編的リズムが絡み合うことで、より大きな構造へと至る。そして、それを支える通奏的なモチーフがある。見事である。
全体を通して文体は軽快で、想像力を駆使しながらも、物語自体はしかるべきところに落ち着くので、(前衛小説を読んでいるような)不安感はない。ちゃんと、lost inさせてくれる物語である。