キレッキレのハイテンション・スピードノベル、かと思いきや、案外しんみりと心に染みる物語である。『文中の( )にあてはまる文字を入れなさい』も似たような雰囲気があったので、著者の持ち味でもあるのだろう。軽さと重さのバランスが絶妙なのだ。また、小説的構造にもひとひねりがある。
ライトな文体を軽妙に使い分けつつ、ひねりのある構造を入れてくるあたり、存外に技巧派の印象を受けた。
ストーリーとしては、小説に絶望しかけた女の子の前に、突然小説の神様__志賀直哉ではなく、ハロウィンオバケというか、スレッドお化け坊的な何か__が登場し、小説を滅ぼそうと持ちかけてくる。彼女は言葉にならない言葉をもってそれを止めようとするが、逆に神様から「面白い小説のプレゼンをせよ」と持ちかけられる。彼女は、これまで自分が読んできた小説を思い返しながら……、という流れである。
やや分析的に書けば、これは「小説の神様」という架空の視点を置いた、著者自身による「聖地巡礼」である。読者は著者と一緒にその旅をする。その点だけをみれば、「面白い本を10冊紹介する」というブログ記事のようなものだ。しかし、ことはそう単純ではない。彼女は、自分が読んだ本を振り返りながら、「小説を読むとはどういうことか」という原点へと回帰していく。その振り返りは、過去に視点を向けてはいるのだが、ある時点でベクトルが逆転する。読み手と書き手の境界線が曖昧になり、過去は未来へと向かう敷石となる。
とまあ、分析的に書くのは野暮な作品である。普通に物語を楽しんで、じんわりと心に残る暖かさを噛みしめる。そういう読み方が一番ぴったりくるだろう。