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『ルポ トランプ王国』(金成隆一)

トランプ氏を支持したのはどのような人々だったのか。

そのルポが本書では綴られている。そこにあるのは、差別的なイデオロギーではない。時代に取り残され、社会と自分の関係が希薄化しつつあると感じる人たちの叫びである。その叫びは、基本的にはどのような政党でも救えない。だからこそ、彼らは既存の政党がこれまで口にしなかったようなことを口にする人間を希求する。それを体現したのがトランプ氏だったのだろう。

経済が発達し、やがて中心的な産業が別の産業へと移行するとき、「取り残される」人々は必ず発生する。社会全体が経済成長しているならば、その人たちにも再分配は行われるし、新しい希望を抱くことも可能だろう。しかし、それが叶わなければ、あらゆる既存のものへの打破が望まれる。ポピュリズムはその情動を栄養として成長する。起こるべくして起こった、という言い方も決して言いすぎではないだろう。先進国が抱える病巣なのだ。

トランプ氏を批判するのは構わないが、その国で生き、まさに彼に希望を込めて票を投じた人がいることは忘れてはいけないだろう。そこに託された希望がたしかにあったのだ。それを忘れてしまっては、根源は何も変わらない。危うさは残り続ける。

その危うさは、一つには全体主義的な傾向を持つだろうし、もう一つには強固な保守主義を持つだろう。どちらも基本的には非科学的な背景を軍勢のように従えて跋扈するはずだ。しかし、非科学的だとそれを退けることに意味は無い。なぜ、そのような非科学的なものが前に出、支持されているのかについて踏まえる必要がある。『アレント入門』、『なぜ保守化し、感情的な選択をしてしまうのか』あたりが参考になるだろう。

▼目次データ:

はじめに
プロローグ――本命はトランプ
第1章 「前代未聞」が起きた労働者の街
第2章 オレも、やっぱりトランプにしたよ
第3章 地方で暮らす若者たち
第4章 没落するミドルクラス
第5章 「時代遅れ」と笑われて
第6章 もう一つの大旋風
第7章 アメリカン・ドリームの終焉
エピローグ―大陸の真ん中の勝利

ルポ トランプ王国-もう一つのアメリカを行く (岩波新書)
金成隆一 [岩波書店 2017]

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