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『NHK出版 学びのきほん 本の世界をめぐる冒険』(ナカムラクニオ)

「NHK出版 学びのきほん」シリーズは、教養として楽しめる100ページほどのムック本で、これまでにもいくつかラインナップがあり、高橋源一郎の『「読む」って、どんなこと?』や松村圭一郎の『はみだしの人類学 ともに生きる方法』など興味深いテーマが多い。本作「本の世界をめぐる冒険」も同様だ。

本書は「本の世界史」と銘打って、本がいかに生まれ、どのように発展してきたのかが語られている。目次は以下の通り。

第1章 改めて、本ってなに?
第2章 本はどのように進化したのか
第3章 日本の本クロニクル
第4章 本の未来をめぐる冒険 

まず本の起源として、著者は人間をそこに定める。つまり「語り部」こそが本のはじまりというわけだ。昔は知識豊富な人を生き字引きと呼んだが(今ならさしずめ生きペディアだろうか)、まさに生きて語る存在=「生きてる本」=語り部こそが、あらゆる神話や物語のスタート地点だというわけだ。

この話は、はるか昔「コンピュータ」と言えば人間の仕事を指した、というエピソードを彷彿とさせる。人がやっていたことを、テクノロジーが代替する。人類の文明の歩みであろう。

また、語り部を本の起源に見定めるとき、そこに「伝え、残そうとする意志」を見てとることはできないだろうか。単に情報がそこにあるだけでなく、誰かがその情報を(労力をかけても)残そうとしたこと。私たちが「本」に何か特別なものを感じるのは、そういう意志を「本」に見て取っているからかもしれないし、現在のWebがずいぶん悲惨な状況になっているのは、そういう意志とは無関係に情報を発信できるようになったからかもしれない。敷き居が下がることには、良い面もあり、悪い面もある。

本書はその後、さまざまな媒体(主に材料)を使った「本」が紹介され、その後日本における本の歴史を辿る。とは言え、小難しい話はないので気楽に読んでいけるだろう。

そして、第4章である。この章では、「場」としての本に視線が注がれている。本がある「場」、本が生み出す「場」。書店の苦戦が認識される中、それでも本と人との関係を模索する人は多い。著者もそのひとりであろう。

本書が示すように「人と情報をつなぐ記録媒体」全般が本であり、その媒体に人も含まれるのならば、本は人と人とをつなぐものでもある。実際私たちは、本を読むことで見ず知らずの他者とつながることができる。それは、その本の著者であるかもしれないし、その本をお勧めしてくれた先輩かもしれないし、同じ本を読んだ同級生かもしれない。

現代では、本は黙読するものであり、それは「ひとりの世界」に旅立つ手段でもあるのだが、音読が当たり前だった時代、あるいはもっと古くひとりの語り部の話を皆が集まってきいていた時代では、決してそれは孤独への扉ではなかったはずだ。孤独にこもるスタイルは、読書の一つの在り方であって、すべての在り方ではない。

その意味で、現代を生きる私たちは、早すぎる情報から身を隠すための読書と共に、人と人とがつながり合うための読書にも注目する必要があるのだろう。本の未来は、そうした人の営為と、「情報をなんとしても残していこう」という意志の上に築かれるのだと、私は感じる。

ナカムラクニオ [NHK出版 2020]

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