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『思考のための文章読本』(花村太郎)

一般的に「文章読本」と言うと、著名な作家による作文講座みたいなものを思い浮かべるが(谷崎潤一郎、川端康成、三島由紀夫が書いている)、本書はひと味違う。少なくとも、作文技術とはあまり関係がない(ただし、少しはある)。

本書は、文脈豊かな文章を引きながら、その文章の裏側に流れる思考の類型を解き明かし、著者なりの解説を加えて提示した本である。その意味で、本書はたしかに「文章読本」である。「文章」を「読むため」の本なのだ。

目次は以下の通り。

第1章 単語の思考―単語は巨大な思考単位である
第2章 語源の思考―原初の宇宙観に立ち会う
第3章 確実の思考―方法的懐疑と論理
第4章 全部と一部の思考―反証・量化・代用
第5章 問いの思考―思考に形をあたえる
第6章 転倒の思考―視点の転換
第7章 人間拡張の思考―メディアと技術の見方
第8章 擬人法の思考―どこまでがヒトか
第9章 特異点の思考―誇張法の系統樹
第10章 入れ子の思考―思考の原始構成

人間の「知的操作」に関するパターンは、だいたいここに当てはまっているだろう。その意味で、優れた思考入門書と言える。また、さまざまな作品と作者が引かれているので、そうした本に辿り着くためのベースキャンプと言えるかもしれない。

で、なぜこれが少しは作文技術と関係があるかと言えば、考えなければ文章は書けないからだ。あるいは、「考え」のない文章は、ほとんどの場合において読むに耐えないと言ってもいい。

でもそれは、精緻な理論を必要とするとか、厳密な定義を元に話を進めなければいけない、という話ではない。人間の脳が持つ情報処理作用を働かせる必要がある、という程度の話である。その情報処理作用には多様なパターンがあるわけだが、人はそれをおおざっぱにひとくくりにして「考える」と呼んでいるのである。本書では、そのパターンが大きく10に分けられている。

本書を一通り読むと、別の本を読んだときに、「ああ、これはあの思考だな」というのが捉まえやすくなるだろう。その意味でも、本書は「文章」を「読むため」の本なのだ。

思考のための文章読本 (ちくま学芸文庫)
花村 太郎 [筑摩書房 2016]

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