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『消極性デザイン宣言』(消極性研究会)

社会は、その中にコミュニティーを生み出すので、必然的にコミュニケーション能力が高い人が、それなりにうまく立ち回ることになる。それはそれで得手不得手の問題なので仕方がないのだが、社会制度の前提にコミュニケーション能力が高さが据えられると多くの疎外を生み出してしまう。これは由々しき事態である。

本書では、そうしたコミュニケーション能力がそれほど高くない(あるいは著しく低い)人たちであっても、技術のサポートを得てコミットできる可能性を探る研究がいくつも紹介されている。

席決めのときに自分の希望がバレにくいシステムや、傘連判状をモチーフにしたチャットシステムなどは、シャイな人たちのコミットを引き出すきっかけになるだろうし、それはそのままネット上での協力や協業をいかに生み出すのかの視点にもつながるはずである。ネットで目立つインフルエンサーはごく一部の例外的な存在であり、その他大勢はむしろシャイであることを考えれば、そうした人たちのコミットを引き出せることには大きな意義があるはずである。

そしてこれは、対話に依らないコミュニケーションの可能性の追求としても捉えられる。つまり、「声にならない声を、声ではない形で拾う」のだ。

本書の副題として「消極的な人を、声を上げよ。……いや、上げなくてよい。」という皮肉めいたフレーズが掲げられているが、まさにその視点こそが大切である。消極的な人たちに対して、「そんなんじゃあなたの気持ちは伝わりませんよ。もっと大きな声を上げましょう」というのは、単純に言って個性の否定である。アプローチできる手段が言葉によるコミュニケーションしかないのなら、その要請も仕方がないのかもしれないが、技術の発展によって別のアプローチも可能になりつつある。「声なき声を拾う」という視点は、これまでの社会が、見逃してきた(聞き逃してきた)声を拾い上げるための道しるべとなるだろうし、それが本当の意味での「多様化」を促進させることにもなるだろう。

▼目次データ:

はじめに[栗原一貴]
第1章 「やめて」とあなたに言えなくて 一対一もしくは一対少数のコミュニケーション[栗原一貴]
第2章 考えすぎを考えすぎよう 人が集まるイベントなどにおけるコミュニケーション[西田健志]
第3章 共創の輪は「自分勝手」で広がる 複数人でのコラボレーション[濱崎雅弘]
第4章 スキル向上に消極的なユーザーのためのゲームシステム[簗瀬洋平]
第5章 モチベーションのインタラクションデザイン[渡邊恵太]
付録 座談:使えないのは人間ではなく、デザインが悪い

消極性デザイン宣言-消極的な人よ、声を上げよ。……いや、上げなくてよい。
消極性研究会 イラスト:小野ほりでい [ビー・エヌ・エヌ新社 2016]

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