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『FACTFULNESS』(ハンス・ロスリング)

簡単に言えば、本書は次の二つのことを示している。一つは、この世界は──いまだ悪い部分があるにせよ──少しずつ良くなってきている、ということ。もう一つは、私たちが持つ情報を受け取るバイアスのせいで、その事実が見えにくくなっている、ということ。さまざまな側面から、その点が確認されていく。

しかし、お説教のような堅苦しい感じはあまり受けない。著者であるハンス・ロスリングのユーモアのセンスのなせるわざなのか、あるいは個人的なエピソードが驚くぐらい率直に語られているせいなのか、そのあたりは判断がつかないが、著者の語りに真摯や誠実さを感じることは間違いないだろう。

もちろん、内容というか著者の主張については反論は可能だと思うし、それが開かれた公共空間では大切なこともたしかだ。が、そうした話(世界は本当に良くなっていると言えるのか?)は別にして、私たちが情報を「偏って」解釈し、そのせいで必要以上にドラマチックにこの世界を眺めてしまう傾向があることは、十分注意しつつ受け取っておいた方がよいだろう。

「いましかない」という焦りはストレスとのもとになったり、逆に無関心につながってしまう。「なんでもいいからとにかく変えなくては。分析は後回し。行動あるのみ」と感じたり、逆に「何をやってもダメ。自分にできることはない。あきらめよう」という気持ちになる。どちらの場合も、考えることをやめ、本能に負け、愚かな判断をしてしまうことになる。

情報が溢れかえり、どれもが「もっと読んで! もっと読んで!」とアテンションを希求してくる現代だからこそ、いっそう大切な話である。

FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣
ハンス・ロスリング,オーラ・ロスリング,アンナ・ロスリング・ロンランド 翻訳:上杉周作,翻訳:関美和 [日経BP社 2019]

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