お題を与えられ、学生が400字で課題を書き上げる。
そうして書き上げられた作品を味わいながら、よい文章を書くための要件がレッスンされていく。
では、その「よい文章」とは何か?
よい文章とは、
①自分にしか書けないこと
②だれにもわかるように書くということを実現している文章。
なるほど。短いながらも、エッセンスが詰まった定義である。逆に、この定義から「よくない文章」の3つのパターンも見えてくる。それぞれを否定した組み合わせを作ればいい。
- だれでも書くようなことを、だれにもわかるように書いた文章
- 自分にしか書けないことを、自分だけにわかるように書いた文章
- だれでも書くようなことを、自分だけがわかるように書いた文章
著者はそれぞれ、「駄文」「悪文」「誤文」と名付けている。これも面白い。
そうした「よくない文章」にならないように気をつけつつ、「よい文章」を目指すというのが本書のレッスンの要点なのだが、そこで400字という短さが効いてくる。
短い文章は、まず読み手に負担を掛けない。2万字の原稿をドンっと突き出されて「どうです?わかりやすかったですか?」と問われても少々答えに困るだろう。しかし、400字ならば軽く読んでもらえる。それでいて、ひとまとまりのことくらいは言い切れる分量でもある。フィードバックをもらって修正することも、数万字の文章に比べれば全体の見通しが一発で立つのでやりやすいだろう。なかなか良い感じなのだ。
さて、あとは「自分にしか書けないこと」を書いていくだけなのだが、案外これが難しい。いや、これはとても簡単なはずなのだが、やっぱり難しい。オリジナリティーは出そうと思って出せるものではない。では、どうやるか。そう、メモである。
本書は「よい文章」を書くためのレッスンでもあるが、実は文章執筆におけるメモの役割を相当詳しく解説した本でもある。ちょうど私が今構想している『断片からの創造』とピタリかさなる内容がたくさん含まれていた。この点が、非常に興味深い。
トップダウン方式でテーマを決めて、それに沿って書くという、理想的でありながら、理想でしかないやり方ではなく、小さなメモの組み合わせで文章を組み立てていくというやり方は、ひどく現実的であり、実践的でもある。1000ページの本も一つのメモからなのだ。
メモこそが、あなたの視点で世界を切り取る行為である。それがなくては、「自分にしか書けないこと」は決して立ち上がらない。