本書を読んで、少し驚いた。何に驚いたかと言うと、「グッドバイブス」や「ひとつの意識」といった概念を私はほとんど持ち合わせていないにも関わらず、本書の内容にとても共感したことだ。
いや、共感したというよりも、実践していると言った方が近しいだろう。価値を生み出す仕事、独善性からの離脱、真剣に取り組むこと、意味づけの意識的な変容。どれもこれも、私が(本書の言葉を借りれば)「ご機嫌に」生きていくために心がけ、実践していることである。
不思議なものだ。至る理路は違えども──これまでグッドバイブスなるものについて考えたことは一度もない──、辿り着くところは似ている。その共時性は、人間が生きる上での共通点を示しているのかもしれない。あるいはそれこそが、著者がいう「ひとつの意識」の現れなのかもしれない。私たちは井戸の奥底でつながっているのである。
とは言え、ここで本書の概要について語るつもりはない。そのような「端的」な説明で充足できる本ではない。
本書は、仕事からしあわせな感覚を得ることを目指すものではあるが、そのためにすぐに使える効率的なノウハウがずらりと提供されるわけではない。本書が目指すのは、認識の変化である。
- 私たちが働くこの世界についての認識
- 「仕事とは何か?」についての認識
この二つの認識の変化を通して、仕事との付き合い方を、引いては生き方そのものをCHANGEしていく。
ただし、その道のりは易しくはない。意識を変化させることは、何かを丸暗記することとはまったく違っている。「答え」を示されて、それを頭にたたき込めばOKとはいかないのだ。
だから本書は実にゆっくりと展開していく。目の前にいる魚について質問したら、地球がどのように誕生し、そこで生態系がいかに育まれていったのかの歴史が語られるかのようである。
たとえば本書では、仕事の定義として以下が示された後で、
「この世にない新しいものを創り出し、それを誰かのために役立てること」
さらにいくつかの議論を経て、
「仕事とは、自分の個性から導き出された役割にそって、この世にない新しいものを創り出し、それを誰かのために役立てること」
というように定義がバージョンアップされていく。意識の変化には、このバージョンアップの過程を追いかけることが肝要なのだ。最後に出てきた定義だけを「つまみぐい」しても、それは丸暗記と変わりない。
よって、冒頭にも書かれているが、本書はゆっくりと読み進めるのがよいだろう。「それはどうかな?」とか「え〜、それはないよ!」といった反感(反論?)を素直に受け入れ、その上で著者の言葉に耳を傾けていく。そのような読み方が可能な本である。