役立つ本である。
実は、私も似たようなことを考えたことがあった。書いた文章を推敲(校正)していると、間違いが見つかる。多くは誤変換だ。しかるべき漢字がしかるべき場所で使われていない。出版した後に、間違いに気がついたこともある。冷や汗ものだ。
たとえば、「新たな気持ちで臨む」というのを「新たな気持ちで望む」としてしまう。おそらく、前者のプラスの気持ちが、後者の漢字をイメージ的に引きつけてしまうのだろう。だから、なかなか間違いに気がつかない。
で、そういう間違いは、実は傾向を持つ。つまり、同じような間違いが何度も発生する。均一に分布しているわけではなく、偏りがあるのだ。
そのことを理解していると、間違いを減らせる。「のぞむ」という言葉を入力して変換するときに、「あっ、これは間違いやすい漢字だぞ。気をつけろよ」と思うようになるのだ。
何冊か本を書いた後で、私はそのアンチョコを作ろうと計画した。誤変換・誤用しやすい言葉をピックアップしてEvernoteのノートにでもまとめておくのだ。結局その計画は頓挫してしまったわけだが──そういう間違いに気がつくのは文章の校正中で、文章の校正中にはあまり他の作業をしたくないからまったく増えなかった──、本書はまさにそのアンチョコとして機能してくれる。
おそらく慣れた書き手なら「そうそう、これ間違うよね」と頷けるだろうし、編集さんに原稿を見てもらった経験が少ない書き手なら「えっ、これ間違って使ってた」と発見することも多いだろう。私も「関わらず」とか「渡って」など、誤って記憶している言葉があった。
もちろん、そういう言葉遣いが一般になれば、今度はそれが「正解」になるのが、言葉というものである。でもだからといって、基本的な知識を持つ必要がないわけではないだろう。知識を知った上でどう使い分けるかは書き手が決めていいが、その選択肢を持てるのは知識を有する人間だけである。
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