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ラオスにいったい何があるというんですか?(村上春樹)

最近どこかで熊本について読んだような気がしていたら、次の記事で思い出した。

村上春樹さん「するめ噛むみたいに支援を」募金呼びかけ:朝日新聞デジタル

そうだ、ラオス本だ。タイトルからラオス旅行記のようにも思えるのだが、実はこっそりついている「紀行文集」からもわかるようにいろいろな旅の文章が収められている。目次は以下の通り。

・チャールズ河畔の小径
・緑の苔と温泉のあるところ
・おいしいものが食べたい
・懐かしいふたつの島で
・もしタイムマシーンがあったら
・シベリウスとカウリスマキを訪ねて
・大いなるメコン側の畔で
・野菜と鯨とドーナッツ
・白い道と赤いワイン
・漱石からくまモンまで

行き先は、ボストン、アイスランド、二つのポートランド、ギリシャの二つの島、ニューヨークのジャズクラブ、フィンランド、ルアンプラバン、イタリアのトスカナと多様である。で、最後が日本の熊本だ。このなんとも言えないチョイスが、いかにも春樹さんらしい。

ただし、この紀行文集はこれまでの「旅もの」に比べると、ワイルドさは少々欠けている。想像もつかないような無茶苦茶な出来事が起こるということもない。さすがに春樹さんも今年で67歳である。旅にもそれ相応に落ち着きが出てくるというものだ。

抜群に面白かったのは、ニューヨークのジャズクラブを訪れた「もしタイムマシーンがあったら」だった。「ヴィレッジ・ヴァンガード」の空気がふつふつと伝わってくる。もちろん、僕はそこに実際に行ったことはないわけだが__日本にある「ヴィレッジヴァンガード」にはよく行くけど__、「老舗」と「ジャズ」が入り混じったその空気は(きっとタバコの煙も混じっていることだろう)、本当にありありと思い浮かべることができる。

他の国に比べると「歴史が浅い」と評されるアメリカではあるが、だからこそ何かに強いこだわりを持ち、現在進行形で歴史を刻んでいるものには一定の敬意が払われるのかもしれない。そんなことを考えた。

さて、熊本である。

冒頭に出てくるのは「しらたまくん」だ。しらたまくんは、熊本市内にある「橙書店」の看板猫である。かわいい白猫がいる書店。それだけで行きたくなってくる。そこに村上春樹さんが来てイベントをやるというのだから、実にうらやましい。

「橙書店」は個人経営のお店で、

自分の気に入った本しか置かないいわゆる「セレクト・ショップ」で、自己啓発本なんかは一冊も置いていない。

という。これまた興味をひかれる書店である。というか、そういう書店の経営が成り立っているということに僕たちはもっと注目した方がいいのかもしれない。

で、その次に夏目漱石が住んだ家が登場し、熊本城周りのランニングが出てきて、万田坑、SL、海上にある赤崎小学校、阿蘇、くまモンへと話題は移っていく。なかなか話題が多いし、特色が強い。阿蘇のところで紹介されていた、見渡す限り一面の「トリアピー」なんて実に気になる(※)。
※「阿蘇 トリアピー」で検索すると見つかります。

面積で言うと15番目に大きい県だし、山も海も島もある。城もあるし産業も盛んなようだ。関西の田舎に住んでいるだけだと、そういうことは全然わからない。

今後、状況が落ち着いたらもちろん復興への動きが出てくるのだろう。決して取り戻せないものはあるにせよ、続いている人生はそこにあるわけで、街の復興は喫緊の課題となる。そのためには人と物とお金が動かなければならない。もう少し言えば、経済というものが循環しなければいけない。情報は、その潤滑油となってくれるだろう。

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