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『スタンフォードの自分を変える教室』(ケリー・マクゴニガル)

若干うさんくさいタイトルなのだが、中身はごくまっとうである。

ちなみに、「自分を変える」教室であって、「自分が変わる」教室ではない。この辺に、多少の奥ゆかしさは感じられる。とは言え、原題は『The Willpower Instinct』であって、まったく関係はない。で、内容も原題通り「意志力」について書かれている本である。

では、意志力と「自分を変える」がどのように結びつくかなのだが、できるだけ好意的に解釈してみると、これは「自分」というものについての認識を変えると捉えられる。自分が思っているほど「自分」って自分じゃないよね、という話だ。たとえば私たちは何かをやろうと思えば、それができるように感じられる。で、それができないとものすごい敗北感に襲われる。「ダイエットしようとしているのに、ケーキを食べてしまうなんて……」

でも、案外そういうことは起こりうるのだ。というか、それがデフォルトと考えてすらいいかもしれない。私たちは自己をコントロールするという主体(自我)があり、衝動で行動する主体がある。それらがせめぎ合って行動を決定しているので、思うようにいかないことは多い。でもって、その自己コントロールを行うときに役立つのが「意志力」である。本書ではその意志力をどう発揮すればいいのか、その力を高く保つためにはどんなことに気をつければいいのか、意志力を阻害する要因は何か、といったことが解説され、それを乗り越えるためのトレーニングも開示される。

しかも、本書ではノウハウ本にありがちな詰め込み問題がちゃんと意識されている。「一章ごとに一つの戦略だけためせ」と注意書きがあるのは、それだ。この辺りは、『なぜ、ノウハウ本を実行できないのか』を読めばわかるだろうが、たいていのノウハウ本は情報過多なのである。人間はそれほど一気に多くのことを身につけることができない。だからこそ、「一章ごとに一つ」なのだ。

が、そういう本書でも、ノウハウ本が抱えるジレンマを__しかも、本書で指摘されているジレンマを__すべて克服できているとは言い難い。私の『「目標」の研究』は果敢にそれにチャレンジした本でもある。

スタンフォードの自分を変える教室 スタンフォード シリーズ
ケリー・マクゴニガル [大和書房 2012]

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