良いタイトルだ。『要領がよくない人のための仕事術図鑑』ではなく『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』である。
人は思い込みによく囚われる。「自分は要領がよくない」と思い込んでいる人も少なからずいるだろう。もっと言えば、「自分は要領がよくなくて、これはもう改善しようがない」と思い込んでいる人である。著者らはこの思い込みに杭を打ち込む。それらは天賦の才などではなく、ある種のスキルであり鍛えられるものなのだ、と。
著者らが提唱する「仕事術」は至極シンプルなものだ。いろいろに言及はあるが、その基盤となるのは「手順書」である。自分の仕事の進め方を細かく記載したリスト。それらを作り、参照して仕事を進めていきましょう、そうすれば要領の悪さと呼ばれる状況はずいぶん改善されますよ、と著者らは言う。
ここで二つの反論があるだろう。「そんなことはもうやっている」と。自分のタスクリストを作り、それを使って仕事を進めている人は何も問題はない。そのまま続けていけばいい。本書にはそれよりも高度なことは書かれていない。できるビジネスパーソンや、十倍の生産性(あるいは年収)を目指す人ではなく、「普通」に仕事ができるようになることを目指す人たちに向けて本書は書かれている。ようするに、自分の用のリストを作らない人たちだ。
もう一方の反論は、そちら側からやってくる。「そんなの面倒です」と。たしかにその通りだ。リストをまったく作らない状態から見たら、リスト(本書なら手順書)を作るのは面倒そうに思える。そんなことに時間を使っている暇があるなら、一つでも多くアクションを起こした方がいい──そういう思いがまさに、要領の悪さや段取りの悪さを生み出しているのだが、なかなかそれに気がつけない。なぜなら「記録」がどこにもないからだ。
リストの効能は(あるいはそのありがたさは)実際にそれを作り、使ってみるまではなかなか想像できない。想像上の費用対効果は常に悪いままである。だから、(使い古された言葉ではるが)一度騙されたと思って作ってみるといい。
これから自分が行うことについての手順書を作り、その項目を一つずつこなしていく。問題があれば、手順書を修正して、現実に合わせていく。
たったそれだけ。たったそれだけのことで、脳の働きが劇的に変わってくる。仕事を進められるようになるばかりでなく、自分の「想像」の解像度がいかに粗いものであるかを思い知らされる。その体験を一度潜り抜ければ、もはやリストなしで何かをなそうとは思わない。特に重要な物事であればあるほどそうである。
本書は「手順書」と呼んでいるが、これは広義のタスクリストの話である。よって、本書でリストに慣れたら、『「リスト」の魔法』や『「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門』を併せて読んでみるとよいだろう。何かを管理するために、リストがいかに力を持っているのか、そして多様なバリエーションがそこに眠っていることがわかるはずである。