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『ネットで成功しているのは〈やめない人たち〉である』(いしたにまさき)

2010年に発売された本書であるが、めでたく2019年に電子書籍版が各種ストアから発売されることとなった。だいたい10年である。

これはつまり、ある種の「答え合わせ」ができるようになったことを意味する。つまり、ネットで成功しているのは、本当に〈やめない人たち〉であったのか、と。

圧倒的な二行

セクション5「アンケートからなにが読み取れるかⅡ─クロス分析」にこんな一文がある。

ところが、インタビューを終えてみると、このまったく正反対のことをやってきたと思える両者がほぼ同じことを口にする結果となりました。つまり「面白いと思えることをやっていて、気づいたらこうなっていた」ということです。

ここで言及されている両者とは、デイリーポータルZの林雄司さんとGoogleマップの開発チームである。この二つが横に並んでいる時点でこの本の「わけのわからなさ」(褒め言葉)が感じられるわけだが、その両者に共通点を見出し、その特徴を著者は二つ挙げている。

・プランを考える前に手を動かしてどんどん作ってしまう
・ネットの外にあるものをネットの中に持ち込む

この二行は、10年経った今から読み返してみると圧倒的である。当時はそんな風には思わなかった。赤線すら引いていない。でも、この二行は本当に大切なことだったのだ。どういうことだろうか。

いくつか関連する箇所を引いておく。

こういうやり方が、ネットのロジックとそもそも親和性が高いということが言えるでしょう。機会均等性があらゆる人に開かれており、なおかつすべては結果で判断されるのがネットという世界です。

このことからわかるように、ネットでは予定した結果に向けてプランを練って実現していくよりも、まずは行動してしまうことが、ある意味予定していなかった結果に結びつきやすいと言えるのです。

この本が出て数年後、ブログブームが訪れた。しかも、プロ寄りの(つまりプロブロガー寄りの)ブームである。そこで行われていたことは、突き詰めれば、

・手を動かす前にしっかり勉強してプランを考えましょう
・ネットの中にあるものをネットで循環させましょう

と言える。もう一度、最初の二行を引用しておこう。

・プランを考える前に手を動かしてどんどん作ってしまう
・ネットの外にあるものをネットの中に持ち込む

おどろくほど対比的ではないか。そして、「しっかり勉強してプランを作り、ネットの外にあるものを何一つネットの中に持ち込んでこなかった」ブログがどうなったかは、今さら説明するまでもない。

これが、私が考える答え合わせの結果である。

さいごに

おそらく、一番のポイントは、「ある意味予定していなかった結果」にあるだろう。

予定している結果を望むなら、「手を動かす前にしっかり勉強してプランを考えましょう」というのはある程度機能するように思う。それは試験試験に臨むのと同じだからだ。ただし、望んでいる規模が得られるとは限らない。15万円の月収を求めて、得られるのは5000円かそれ以下、というのはありえる。なにせ、そのルールでプレイしている競争相手は多いのだ(≒機会均等性が開かれている)。得られる結果は、そうした他のプレイヤーにダイレクトに影響を受ける。

しかし、「ある意味予定していなかった結果」は、そういうのとは全然別である。突然、別のゲームが始まるのだ。しかも、自分ができる(あるいは得意な)ことがルールに組み込まれているゲームだ。

もちろんそれは、たった一人で作り出せるものではない。他の人に「見出されて」生み出されるものである。でもって、そこでログが効いてくる。いったい全体ログなしで何がわかるというのか。何が伝えられるというのか。

ログは雄弁に、あなたが「誰」であるかを語る。それはプロフィールなんかよりもはるかに「誰」に迫るものだ(アレントが使う「誰」を思い浮かべてくれればいい)。それがあるとないのとでは、まったく違ってくる。

ただしこれは、歯を食いしばってログとなりうるような活動を意地でも続けなさい、という話ではない。それでは本書のタイトルが〈やめない人たち〉になっているニュアンスがすべて損なわれてしまう。そうではなく、著者がシンプルに言うように「面白いことじゃないと続かない」のだ。つまり、面白いと思えることをやればいい。で、その結果をネットに流すように意識する。それがログとなっていく。そういう流れである。

〈やめない人たち〉は、面白いことに夢中になっている人たちである。あるいはついついそれをやったり、思わずむきになって取り組んでしまう人たちである。保証された結果に向かって努力する〈続ける人たち〉ではなく、己の関心と、その結果を他者にGiveすることを厭わない人たちである。

もう一度言うが、本書のタイトルを「成功したければ、続けなさい」と読んでしまえば、それは誤読である。そんな仮言命法で切り取れるほど、ネットの世界は単純ではない。あるいは、ネット以外の世界もそうなのかもしれないが。

ネットで成功しているのは〈やめない人たち〉である
いしたにまさき [技術評論社 2010]

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