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『賢者の孫(1)』(吉岡剛、緒方俊輔、菊池政治)

非常にまっすぐな、異世界転生チートものである。

遠慮も躊躇もいっさいなく、主人公シンは強力で、恵まれた立場にある。『たとえばラストダンジョン前の村の少年が序盤の街で暮らすような物語』のような世間知らず感も多少はあるが、瑕疵としては捉えられていない。

どのような困難も、克服が前提であり、あとはその過程を眺めるに過ぎない。少なくとも、第一巻だけを読めば、そういうテンプレート的チートものである。逆に言えば、そういう無双を楽しみたいならばぴったりな作品だろう。

しかし、煌々と日を照らすような本作にも、一応の影はある。それが現れるのはもう少しストーリーが進んでからなのだが、極端な、それこそ世界を滅ぼしかねない力を有した人間が、激情に駆られたとき、はたしてどうなるのだろうか。

それこそ、彼を止められるものは誰もいない。そして、その刹那では理性も役に立たない。

賢者であるということは、どういうことか。

もちろん、そんなメッセージを投げかけるための作品ではないだろうが、それでもふとそんなことを考えてしまう。

賢者の孫(1) (角川コミックス・エース)
原作:吉岡剛 作画:緒方俊輔 キャラクター原案:菊池政治 [KADOKAWA/角川書店 2016]

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