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買う前・買った後の非対称性

現状の電子書籍は、プラットフォームに依るところが多い。Kindleで買えば、Amazonに依ることになるし、Book Walkerで買えば、KADOKAWAに依ることになる。彼らが急に「テヘッ、倒産しちゃいました」と言ってしまえば、もはやそこで買った本は読めないようになってしまう。だから、不安だ、という心配の声には、たしかに一理あるだろう。

そこからさらに、だから紙の本がいいね、という話に展開するかもしれない。

しかし、である。それは買ってからの話なのだ。それ以前の話ではどうだろうか。

紙の本の古い本は、絶版になっていてなかなか手に入らないものが多い。中古本が流通しているものは、1円になっているか、あるいはものすごく高くなっているかだ。どちらにせよ、その形ではどうあがいても著者には収益にならない。はたして、これは「良いコンテンツ流通環境」なのだろうか。

ここに非対称性があるわけだ。

買った後であれば、それは紙の本が良い。プラットフォームに依存しないのだから、それはそうだろう。しかし、買う前であれば、古い本の入手は難しく、中古では著者への還元が発生しない。電子書籍であれば(もちろんストアからの取り下げ事案はあるにせよ)、どれだけ古い本でも買えるし、またそれによって著者への還元も発生する。

本の入手前と、本の入手後に非対称性があるので、電子書籍(とその販売に関するビジネスモデル)に関する議論はややこしくなる。

基本的には、共通の規格を設定し、それぞれの出版社が独自のストアでその共通規格のファイルを販売するのがよいのだろう。今で言えば、EPUBファイルをダウンロードできる形で、電子書籍を販売するのである。EPUB形式が廃れない限りは、この方法は読者側にメリットをもたらす。ただし、その場合、読者は買う本の出版社ごとにアカウントを作らなければいけない。これはどう考えても面倒だし、面倒さは売上げを押し下げる

だから、AmazonとかBook Walkerみたいな大きなところで、一度アカウントを作れば、その後はいろいろな本が簡単に変える、という環境はありがたいのである。でもって、そうしたストアはもちろん独自の生き残り戦略が必要であり、そのために囲い込みが発生する。EPUBファイルをダウンロードなんて、ありえないだろう。それはそれで企業の独善なのだが、だからこそ、そうして大きくなった企業はなかなか潰れにくく、安心して本を買える場所にもなる、という皮肉もある。簡単に決着できる話ではない。

できれば、出版社連合のようなものを作り、それぞれが独自のストアを展開しながらも、そこで購入するためのアカウントは一つ(つまり、クレジットカード番号を入力するのは一カ所で済む)という状態が望ましいのだが、現状KADOKAWAという大きなところが独自のストアを展開しているので、その形になるのは難しいだろう。

結局私たちはトレードオフで何かを選択しなければいけない。ユートピアは存在しないので、何かを得るために、何かを失うことが必要だ。便利さを享受しながら、自由を確保するのは案外難しい。せいぜいできることと言えば、単一のストアの独占とならないように複数のストアを並行して使うことくらいだろうか。それだって、あまりに分散してしまえば、ストアの売上げが下がり、体力が低下して、結局撤退を招くことになるわけだから、2〜3くらいのほどほどの分散、という形がよいのだろう。

もはや選べる選択肢は限られていて、撤退戦のような悲しさもあるのだが、でも、Amazonを批判しているだけでは何も変わらないことはたしかである。

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