もちろん、ベストオブSFの100冊に入る一冊である。
SF的要素を解説するとネタバレになるが、ネタバレしても楽しめるだけのストーリーテリングが本作にはある。陽気で、巧妙で、慎重で、前のめりな物語りは、やおうなしに読者を世界の中に引っ張り込む。先が気になって仕方がない。
強い個性を主張しているわけではないが、それぞれの登場人物はしっかりとその足で大地に立っていて、自らの言葉を話し出す。その世界の扉を開くだけで、読書体験としては申し分ないだろう。とはいえ、ここではネタバレは避けておこう。できるだけフラットに読んでみれば、その分だけ楽しさは増加するはずである。
本作は未来の話ではあるが、むしろ作品全体からはやや古風な感覚を受ける。原作が1956年なせいもあるし、翻訳の言葉の選び方もあるだろう。そうしたノスタルジーは、本作を古びさせるよりもむしろその魅力を増しているように感じる。翻訳はだいたい新しい方が良いのだが、本作はまず旧訳の方で試してみるのがよいかもしれない。
ロバート・A・ハインライン 訳:福島正実 [早川書房 2010]
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