「ヒットの崩壊」というタイトルの響きからして、「音楽業界オワタ」みたいな話が展開されるのかと思いきや、案外バランスの良い視点で現状がまとめられている。むしろ、希望を見出そう、という力強い肯定感すら感じられる。
ケイタイとネットが、「お茶の間」を解体し、日本人なら誰もが知っているという、巨大ヒット作はもはや生まれなくなっている。しかし、単純に音楽活動が利益を上げられないものになっているのかというと、そうでもない。むしろ、多彩な関わり方が可能となっている現状がある。CDの売上げからライブへの移行もしかり、販売からストリーミングへの以降しかり。一昔前では、「タイアップして、CDを大量に売る」というくらいしか道がなかった状況に、新しい選択肢が生まれている。それはつまり、視聴者側の音楽の楽しみ方が多様化していることも意味する。当然、ビジネスモデルもそれに合わせて変化していかなければならない。
問いかけたいのは、これからの時代は、アーティストにとって良い時代なのかどうか、ということだ。これは良い時代であると言えるだろう。現状の売れ行きの構造は、本書が指摘するようにロングテール+ブロックバスターの二重構造であり、世界的にものすごい売上げを記録する一部のモンスター(頭部分)と、それなりにメジャーな作品群(胴体部分)と、極端に数が多いニッチな作品(尻尾部分)の3つの領域が生じつつある。一部の商品には極端なまでにマーケティング費用が投下され、それが大きな売上げを生み出す。そこそこ知名度のあるアーティストは、ファンクラブを中心としたライブで活動を続けていく。そして、大量のニッチな層は、配信コストがかからないネットで着実な居場所を築いていく。
それぞれにコミットの度合いがあり、得られるリターンの可能性がある。そうしたものの中から選択できるのから、裾野は確実に広がるだろう。後は、その変化に日本の音楽産業界がついていけるのかが、鍵となる。
とは言え、本書のインタビューに登場するいきものがかりの水野良樹が語る音楽が持つ力という点は気に留めておきたい。すべてがニッチに集約されていくことは、やはり何かしらを削ぐことになるのだろう。音楽が人をつなぐことは間違いなくある。しかし、音楽のみにその重荷を背負わせるのも、時代錯誤なのかもしれない。
ともあれ、意欲のある人間は今日も今日とて歌い、発信し、プロデュースし続けている。そうした音楽を聴きたいという人も絶えることはない。あとは、その接面をいかに設計するかである。本書は、そうした未来を考えるうえで示唆の多い本である。
▼目次データ:
第一章 ヒットなき時代の音楽の行方
第二章 ヒットチャートに何が起こったか
第三章 変わるテレビと音楽の関係
第四章 ライブ市場は拡大を続ける
第五章 J-POPの可能性──輸入から輸出へ
第六章 音楽の未来、ヒットの未来