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『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』(ケリー・マクゴニガル)

主要なテーマは、ストレスとの付き合い方について。

要点はこうだ。「ストレスが体に悪いと考えたら現実にそうなり、ストレスは役に立つと考えれば現実にそうなる」。ある意味で、ストレスフリーの考え方に真っ向から反旗を翻す。

もちろん、強いストレスに長期的に晒されていることはよろしくはない。しかし、ストレスが役に立つこともある。それは、免疫反応が花粉症やもっと強い病気を引き起こしたりするが、基本的には役立つものであるのに似ているかもしれない。

そもそも以前から疑問に感じていたのだ。ストレスフリーって信仰するくらいに良いものなのだろうか、と。だいたいストレスを完全にゼロにする生活は難しいだろう。人間の揺れやすい感情を思えば、悟りを開くくらいしか手はないように思う。しかし、それ以上に、ストレスが完全にない生活は、本当に人間にとって良いものと言えるのだろうか。

たとえば、ストレッチというのは、ある種の張り(緊張)を与えることによって、筋肉に柔軟性を取り戻す行為だ。筋トレに至っては負荷を加える。そうすることで、より強度のある筋を手に入れる。そう考えるとストレスフリーの生活とは、重力ゼロの環境化で生活することに等しいのではないか。そこでやせ衰えていくものであるのではないか。そんな疑問が頭に浮かぶ。

もし、「どんなストレスであっても、体には良くない」という考えが単に間違っているだけでなく、その考えが有害なのだとしたら? 本書が問いかけ、考え方を変えるためのアプローチを提示するのは、概ねそのような方向性である。

もちろんこの話は、平穏で穏やかな生活を否定するものではないし、ストレスまみれで生きなさいと説くものでもない。ちょっとしたストレスは日常的に起こりうるものだし、その反応は人間が状況に対峙するための準備を整えているのだと捉えれば、そのような軽度のストレスが有害になることはない、という話である。

本書は、巷で極度の悪者扱いされている「ストレス」について考え直すのに良い一冊であろう。

スタンフォードのストレスを力に変える教科書 (だいわ文庫)
ケリー・マクゴニガル[大和書房 2019]

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