第35回日本SF大賞受賞はもちろんダテではない。見事な作品だ。
SFなのだが、ハードSF__つまり何が起こっているのかさっぱりわからない__というわけではない。既存の技術がベースにあり、それを想像力で広げた線を用いて描かれている。ある意味で現実的であり、別の意味で未来的だ。こういうのをゴルディロックスSFと私は呼ぶことにしている。ちょうどいい塩梅のSFなのだ。
もちろん、それだけではない。プロットは緻密で、展開と演出は厳密に管理されている。ほとんど中央あたりで、タイトルのフレーズが登場したときには、思わず鳥肌が立ってしまった。ここまで制御できるものなのか、と。
冒頭は複数の舞台が並行して登場するので、若干靄の中を歩いている気分になるが、ある時点から急に霧が晴れたように世界が一望できるようになる。謎が解けたような、あるいはたまたま歩いていた道が普段使っている道とつながっていることを知ったような快楽がある。
登場人物はかっこよく、信念を持ちながら、かつ楽しみながら仕事をしている。うじうじとしたgloomとは無縁だ。それに、作品全体を通して、旧態依然としたものへの批判的な眼差しと、そこでもしなやかに(あるいはしたたかに)生きる人々への希望が語られている。いっそ啓蒙的ですらある。
とは言え、そんな話はさておいて面白い物語である。その面白さは要素に還元してしまうと意味を失う。「物語」として、その総体を体験することで感じられるものであろう。つまりそれが、よくできた小説の特徴でもある。
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