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『もの書く人々』(根木珠 編)

書くひとたちに直撃取材をしたインタビュー&対談集。

とある。こちらも居住まいを正してページを開く。頭の中には「インタビュー」のフォーマットが浮かんでいる。インタビュアーが尋ね、インタビュイーが答える。

それをあっさり裏切ってくる。第一章は一人語りだ。あれ? インタビュー集じゃなかったっけ? 

第二章はなんとかインタビュー形式だ。しかし、冒頭インタビュイーが尋ね、インタビュアーが答えている。あれ? こういう形式?

おろおろしていると、第三章でさらにその混乱が強まる。もうこの辺で笑いがこみ上げてくる。でも、それはアイスブレイクなのだ。そこから徐々にインタビュー的インタビューが始まっていく。構成的に面白い。通常の編集ならまず出てこない形だろう。そのままずるずると最後まで読み切ってしまった。

ヴォイス

内容とは別に、本書は意義のある一冊だと思う。言い換えれば、良い仕事をしている。

これまでセルフパブリッシング作家やその作品について盛り上げる機運は何度かあった。が、それがうまく成功しているかというと、初期の頃を除けば、いささか難しいと言わざるを得ない。

なぜだろうか。

それは、そうした試みにおいて作家のヴォイスがあまり引き出されていなかったからだ。

私たちは作家のヴォイスに惹かれ、作品に興味を持つ。実際の所、プロフィールなんてたいして意味は無い。おまけみたいなものだ。重要なのはヴォイスである。

そして、ヴォイスを引き出すには、聞き手の存在が欠かせない。言い換えれば、誰かに語りかけるとき、その作家のヴォイスが前面に出てくる。その響きに共振すると、私たちは彼ら・彼女らが紡いだ物語に興味を持ち始める。

対して、形式的なQ&Aでは、作家のヴォイスは消えてしまう。せいぜい文体の残り香が感じられる程度だ。これでは作品に興味を持つ可能性は低い。ここに問題がある。

理想的なことを言えば、そんなヴォイスなど関係なしに、本が売れてくれればいい。作品が評価されればいい。が、他のメディアが勢いを増していることも確かだ。それらはあらん限りの力で攻勢をかけてくる。それをのんびり指をくわえて眺めていればいいのだろうか。そんなはずはない。

だいたいにして、皆好きな作家のエッセイやインタビューを読み、さらにその作家を好きになることはあるだろう。でも、セルフパブリッシング作家にインタビュアーは現れてくれない。せいぜい形式的なQ&Aで、データベース的に処理されるだけだ。それでは弱い。

その意味で、本書は意義ある一冊と言える。

今後も多様なアプローチで、セルフパブリッシング作家とその作品に光が当てられるだろう。その流れに期待したい。

もの書く人々
根木 珠 編[九十九電本文庫 2016]

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