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意識と無意識のあいだ(マイケル・コーバリス)

そんなに分厚くない新書なのだが、さすがにブルーバックスだけあって面白い話が多い。いちいち紹介していたらきりがないくらい。

副題は『「ぼんやり」しているとき脳で起きていること』で、意識をぐっと集中しているときではなく、ぼんやりしているときに脳が行っていることを解明し、そこに肯定的な評価を与えている。

それだけの建て付けなら、うん、まあそうかな、という話なのだが、私たちがぼんやりしているときにさまざまな事柄を心の表面に浮かべるように、本書も連想のようにトピックを渡り歩いていく。

第1章 さすらう脳、さまよう心
第2章 記憶
第3章 時間とタイムトラベル
第4章 海馬──脳のなかのカバ
第5章 他者の心を読む
第6章 物語を語る
第7章 眠りと夢──闇夜にひそむトラ
第8章 幻覚
第9章 さまよう心の創造性

第4章までは、脳がぼんやりしていときに起きていることが言及されているのだが、そこには人間以外の動物も含まれている。むしろ、人間以外でも「夢想」ってするんだよ、というのが面白い切り口だ。が、第5章からは、いよいよ「私たち」の脳に話が移っていく。

人間は他人の心を推測する。では、他の動物はどうか。観察によればどうやらチンパンジーらも他の個体の「心」(それがなんであれ)を推測する力はあるようだ。ただし、人間のそれははるかに複雑である(ように見える)。著者はそこで「物語」を持ち出し、人間と他の動物との差異を強調していく。ここから本書はがぜん面白くなってくる。

たしかに私たちは「物語」を持っている。それを熱心に聞き、ときには自らそれを語る。物語は、他者の心に深く入り込むための手段であり、しかもそれが広範囲に伝播しうる奇妙な性質を持っている。物語は言葉とセットの存在ではあるが、「たくさん言葉が集まったもの」以上の何かを持っている。

また、物語を生み出すためには創造性が欠かせない。これもまた人間がかなり特異に有している能力である。そしてそこに「ぼんやり」が関わっているというのだ。

というわけで、ぼんやりしている時間を上司に責められたら本書を提示するといいだろう。「いま、創造性を発揮しているところなんです」と反論できるはずだ。

意識と無意識のあいだ 「ぼんやり」したとき脳で起きていること (ブルーバックス)
マイケル・コーバリス [講談社 2015]

その他:脳と記憶について

眠っているとき、脳では凄いことが起きている: 眠りと夢と記憶の秘密
ペネロペ・ルイス [インターシフト 2015]

知能はもっと上げられる : 脳力アップ、なにが本当に効く方法か
ダン・ハーリー [インターシフト 2016]

記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方 (ブルーバックス)
池谷 裕二 [講談社 2011]

その他:物語について

神話の力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
ジョーゼフ キャンベル、ビル モイヤーズ [早川書房 2010]

村上春樹、河合隼雄に会いにいく (新潮文庫)
河合隼雄 村上春樹 [新潮社 1998]

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