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知的生産の技術におけるお勧め新書三冊 #専門家が選ぶ新書3冊

ハッシュタグの企画に乗って記事を書いてみる。以下の三冊を(専門家といっていいのかはわからないが)専門家の視点からお勧めしたい。

『知的生産の技術』(梅棹忠夫)

「知的生産の技術」という分野についてなのだから、まず嚆矢となった本を挙げないわけにはいかないだろう。

また、単に分野の嚆矢的存在というだけでなく、今現在読んでみても得られるものが多い一冊として外せない。最近、デジタルノートを使ったパーソナル・ナレッジマネジメントが密かなブームだが、もうその話は1969年発売の本書が先取りして書いているのである。学者として知識を扱うことだけでなく、情報社会の一員として日々の生活の中で情報を扱うことの重要性とその考え方が提示されている。

もちろん、部分部分に古すぎる話はあるが、それを差し置いても示唆に富む本であるし、また読書に慣れていない人であっても読みやすい文体であるので、そういう意味でも総合的にお勧め度が高いのが本書である。

『発想法』(川喜田二郎)

アイデア発想法として、KJ法の名前は聞いたことがあるが、しかしこの本を読んだことはない、という人は多いかもしれない。私は権威主義でもないし、孫引きなど言語道断などと言うつもりはまったくないが、ネットで見かけるKJ法について紹介した記事を読むと、結構違っていることに驚かされる。

細かい話は別段どうだっていいのだが、しかし以下の二点は重要であろう。

・カードを入れ替えて操作するのは全行程の一部でしかない
・カードを並び替えて発想する技法ではない

KJ法は、集まったデータから何かしら一つの新しいことを言うための方法論であり、文章執筆のための技法ではない。とりあえず、その点は抑えておく必要があるだろう。

加えて、本書が提示する一連の方法は、「問題解決に向けてのアプローチ」とも言い換えられる。その意味で、狭義の知的生産のためだけの方法論ではない。これまでになかった方法で、状況に立ち向かおうとするときに、私たちの知性の活性化をエンハンスしてくれる技法である。

『考える技術・書く技術』(板坂元)

知的生産エッセイである。アナログ時代なので、いわゆる「カード」を使った情報整理術が開示されているのだが、梅棹が提示したカード法とはずいぶん趣がことなるのが面白い。

また、タイトルにある通り、単に知的作用の進め方(=思考法)だけでなく、執筆に関する直接的なノウハウも提示している。存外、私はこのあたりの話題が楽しい。著者は以下のように述べる。

馬を水のそばまで連れてくるのは、やさしい。けれどもそこで馬に水をのませるのは難しい、とは昔からよく言われる。

文章-読者においても同様の難しさがあり、著者はサービス精神を最大限に発揮して、手練手管を十全に発揮しなければならない……とまでは書かれていないが、そうしたメッセージを本書から私は受け取った。単にそこに言葉があり、情報があればそれで物書きの仕事は終わりではないのだ。本を読む受け手に、何かしらのメッセージが伝わるようにしなければならない。たとえそれが誤解(誤配)を呼ぶにせよ、何も起こらないよりは遙かにマシである、などと私は考える。

私たちは考えて、書く。そして書くことは誰かにつながっている。でもって、考えることもまた誰かとつながっている。私たちは独立した個でありながら、考えて書くことで、どこかしら重ね合わせのような状態になる。人間らしさの一つを構成するものであろう。

さいごに

以上、三冊の本を挙げた。もちろん、三冊で収まるわけはない。そもそもこの分野の本は(その性質上)新書がやたらとおおいのである。でもって、文庫本も加えてよいならば、さらにラインナップは広がる。

でもまあ、とりあえずは上記の三冊から入門されると良いだろう。現代的なツールに興味があるならば、EvernoteやScrapboxに関する本を読んでみるといい。あるいはアウトライナーというルートもある。入り口は一つではない。

ようこそ、知的生産の世界へ。

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