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映画『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』

テレビ版の続きにあたる作品。原作では『北宇治高校吹奏楽部、波乱の第2楽章』が相当する。ちなみに、『リズと青い鳥』も同作が原作である。なかなか面白い塩梅である。

さて、劇中では、田中あすか先輩など三年生が卒業し、黄前久美子らが二年生になっている。三年生が抜けた分、新しい一年生が加入し、部員自体に不足はない。北宇治のネームバリューは(滝先生のネームバリューを含めて)ググンとアップしているようだ。

当然、今年も部は全国出場、いや全国金賞を目標にする。高い目標だ。部は練習に明け暮れ、新しい部員たちとのコミュニケーションに、「先輩」となった久美子が悪戦苦闘する、というのが本作の一つの筋である。

部としての方向性は固まりつつも、まだ「歴史」を重ねた部ではない。また、滝先生は自主性を重んじるので、いつだって「今年は楽しく演奏します」という方針が出てもおかしくない。いわば不安定な状況なのである。もちろん、中間管理職的位置にある久美子ば多いに苦悩し、その中で自分の答えを一つ見つける。大切な答えだ。

問いかけは、よくあるものだ。

なぜ音楽に打ち込むのか。

実利と直接的に結びつきにくい行為に携わる人間なら一度以上は考え込む問題だろう。あるいは、たった一人ではこの問題は、問題として立ち上がってこないのかもしれない。自分にとって、それはごく自然なことであるから。

うまくなりたい。もっとうまくなりたい。

その気持ちはいつだって、ついてこない結果に裏切られる可能性を秘めている。悔しくなり、悲しくなる可能性を背追い込むことになる。だから、それをしないのかというと、そうは簡単にはいかない。そんな理屈で抑え込めるくらいなら、はじめから青春を賭けたりはしない。

テレビシリーズでは、楽しむ組と真剣組の軋轢、少しの恋愛要素、実力と年功序列など、ややこしい問題が並行で走っていたが、今作ではそこまで大きな物語ではない。吹奏楽部の活動、久美子の音楽との向き合い方、そういった面が大きくフォーカスされている。

そう。この物語は久美子が受け取ったバトンを確かめる物語なのだ。受け継いだものを確かめ、また別の誰かへと受け継ぐために。


監督:石原立也 原作:武田綾乃 シリーズ構成:花田十輝 [ポニーキャニオン 2020]

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