そう。世界は平らに作られたのだ。だって、それを作った神様がそう言っているのだから間違いない。えっ、でも地球はこうして丸いじゃないかって? この目で見た人もいるって? そうなのだ。人類がそうした戯言を言い始めたから、仕方なく神様がそのように作り替えてくださったのだ。ああ、感謝。圧倒的感謝。
という風には我々は考えない。むしろ我々が自らの手で「真理」や「真実」を発見したと思い込んでいる。そう、ニーチェさんが言っていたように、神はお亡くなりになったのだ。むしろ、そのニーチェの発言によって、神様は我々から姿を隠された可能だってある。そういうことにすら、我々は気がついていない。何たる傲慢、何なる怠惰。そりゃばちもあたるってものだ。
という話なのだが(たぶん、そうだと思う)、序盤のお気楽な展開からも、じわじわと足元がぐらつく感じが漂ってきて、先が非常に気になる。短い作品ながらも、起伏があり、メタな構造もある。
誰に感情移入するかと言えば、落合博士でもなく、無意味なボタン押し続ける労働者でもなく、やっぱり神様なのだ。不条理に押しつぶされそうになっている(なにせ自ら作ったものによって労苦を背負っているのだ)神様こそが、私たちの心境に重なる。つまり、私たちは神様であり、神様に作られたものでもある。この入り組んだ循環構造が本作に深みを与えている。
幸いなことに、私たちの世界の神様はバカンスに入るために、制裁を与えて回ったりはしない。でも、たぶん改変が面倒になってきたから、人にAR・VRを与えたのだろう。そこでは、私たちが自分たちの現実を改変できる。そうすれば、神様も一息つけるようになるだろう。
天王丸景虎 デザイン:波野發作 編集:野崎勝弘 [2018 NPO法人日本独立作家同盟]