前巻(9巻)から少し雰囲気が変わり始めたな、と思っていたら10巻でこの展開である。もちろん、ストーリーラインそのものは逸脱していない。あくまで回想的ではあるのだが、それでも(異世界に対するという意味での)元世界への回帰。重要なのは、やはり両親が描写されると共に、スバルが抱える葛藤がはっきりと表された点だろう。こういうのはなかなか珍しいように思う。そういう問題に直面せずに、なんとなく異世界でハッピーに暮らしました、という展開にはならなかった、という点は素晴らしいように思う。
おそらくではあるが、スバルが白鯨を打ち倒し、エミリアの元へと帰還して無事仲直りする、というところまでが当初著者が描いていた作品の「縁」だったように思う。もちろん全体の世界観みたいなものはあっただろうが、物語がそこからどう転んでいくのかは、筆をとった段階ではまったくイメージできていなかったのではないだろうか。キャラが生まれ、出来事が生じ、関係が変化する。そうした積み重ねが物語に新しい展開を要求する。本作及び、本作以降はそうして生まれた物語ではないだろうか。そんな風に思った。
痛々しいほどのキャラであったスバルは、一旦姿を消した。さて、その後はどうなるのか。
長月達平 イラスト:大塚真一郎 ([KADOKAWA / メディアファクトリー 2016]
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