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映画『ハドソン川の奇跡』

2009年に実際に起きた飛行機事故が題材にした映画。

原題は『SULLY』。なかなか思い切った邦題だ。おそらくアメリカでは、サリーという名前を聞いて、あのハドソン川の英雄だな、とピンと来る人が多いのだろう。日本ではそれは期待できないのだから、この映画の「出来事」を端的に伝えるタイトルが選ばれたのはわからなくはない。ただし、本作は奇跡の話ではない。人の話だ。

チェズレイ・サレンバーガー機長は、バードストライクで両方のエンジンが停止してしまったUSエアウェイズ1549便を、ニューヨークのハドソン川に緊急着水させた。緊急事態であり、前例のない状況であったにもかかわらず、彼の判断は冷静で、操縦技術も卓越していた。もちろん、彼は英雄と称えられた。155人もの乗員乗客が命を落とすことなく、地上に帰って来られたのだから。

彼が乗員乗客が全員無事だったという報告を聞いてじんわり胸をなで下ろすシーンは、機長として彼が何を一番大切にしているのかを物語っていた。それだけでこちらも胸が熱くなってくる。

とは言え、話は簡単ではない。マスコミでは英雄と称えられながらも、「本当はもっと安全に着陸できたのでは?」と疑問の声も上がる。社会というのはややこしい仕組みでできているのだ。その辺りの話の結末は、本作のオチにもあたるので割愛するが、いろいろ複雑な要素が織り込まれた繊細な作品であることは間違いない。人間であること、仕事ということ、卓越した技術とその判定について。

一方で、ニコラス・G・カーが『オートメーション・バカ』で警鐘を鳴らす問題もある。機械を操作するのではなく、機械の動作を確認する経験しか積まなかった人間は、はたしてサリーのような決断と行動がとれただろうか。私たちはシミュレーション可能な世界設定で猛烈に効率化を進めているが、大きなブラックスワンがそこには潜んでいるのかもしれない。

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監督:クリント・イーストウッド [2017 ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント]

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