最近、Study Walkerで若手のプレイング・マネージャー向けの連載を始めた。もともと私自身が長らくプレイング・マネージャーをやっており、その現場で苦労をたくさん経験してきたので、そうした状況を少しでも打開しやすいようにノウハウを共有しようと思った次第だ。
ちょうどそのおりに、この本を見つけたので読んでみた。基本的に、問題意識は共通しているように思う。目次は以下の通り。
はじめに 「残業させるな」「予算目標は達成しろ」「部下のモチベーションも上げろ」いったいどうすりゃイイんですか!?
1丁目 モヤモヤ症候群
2丁目 何でも自分でやってしまう
3丁目 コミュニケーション不全
4丁目 モチベートできない・育成できない
5丁目 削減主義
6丁目 気合・根性主義/目先主義
7丁目 チャレンジしない
おわりに 能力と余力と協力を作る――それがマネージャーの仕事
とにもかくにも現場での問題は、「マネージャーの仕事とは何か?」ということが理解もされていなければ、定義もされていないことである。なんとなく漠然とした雰囲気と、前任者がやってきた名残のようなもので仕事が構成されてしまう。これでは改善することもままならない。
さらに問題は、日本でよく見られる優秀なプレイヤーを、深く考えずにマネージャーに抜擢してしまうスタイルだ。このようなスタイルでやっていくと、ますます「マネージャーの仕事とは何か?」という問いが真剣に問われることがなく、プレイヤーの延長線上で仕事がこなされてしまう。待っている結果は、作業の抱え込みすぎであり、現場の育成不足であり、なんの「余白」も存在しないギリギリのスケジュールである。
本書はその環境にメスを入れる、というかハンマーをたたき込むことが意図されている。面白いのは、冒頭部分のマネージャーの仕事の解説である。
まず、著者は5つのポイントをあげる。
A コミュニケーションマネジメント
B リソースマネジメント
C オペレーションマネジメント
D キャリアマネジメント
E ブランドマネジメント
これらがマネージャーが担当する「マネジメント」領域であり、そこからさらに9つの行動が列挙されている。
1 ビジョニング
2 課題発見 課題設定
3 育成
4 意思決定
5 情報共有 発信
6 モチベート 風土醸成
7 調整・調達
8 生産性向上
9 プロセス作り
面白いのはこの9つの行動の表現系で、たとえばビジョニングはADEで、育成はBDEといった具合に複数のマネジメント領域の組み合わせとして表現されている。これは実にわかりやすかった。さらに本書では、一つ大切な指摘もなされている。それは上記のような仕事すべてをマネージャーひとりが抱え込む必要はない、ということだ。
こういう領域の仕事があると理解した上で、適材適所を見極めてチームに割り振ったり、外部の力を借りたりすることも、まったくもって普通の手段である。マネージャーなんだから何もかもを、自分の手を動かしてやらなければならない、と考えていると途端にパンクする。でもって、私はその意識の持ち方こそが、「優秀なプレイヤーの呪縛」であると考える。つまり、自分の評価 = 自分がどれだけ手を動かしたか、という認識が根強く残っているわけだ。
マネージャーにとって必要なのは、チームの成果である。チームをよりよく動かすためにはどうすればいいか。そのことについて必死に考えて、計画や調整を行う。現場の人手が足りてなければ、自らがプレイヤーとして活躍する場面も当然出てくるだろうし、マネージャーが現場目線を知っていることは適切な職場環境を構築する上で役立つわけだが、それでもそのような立ち振る舞いはマネージャーの仕事の本分ではない。仕事をするのは、そして成果を上げるのはチームであり、チームに所属するメンバーなのだ。
その点を理解しておくとしておかないのとでは、半年くらい経ったときに大きな違いが出てくるだろう。自分がプレイヤー気取りではいつまでたっても、チームの力は底上げされない。同じことがずっと繰り返されていく。意識的に、何かを変えていかなければならない。
とは言え、こうした話は、ブラック企業ではまったく効果がない、ということだけは補強しておこう。何もかもを現場に近いマネージャーにまかせて、こき使うだけこき使うという経営陣が居座る会社もこの社会には存在している。そこでは予算も下りてこなければ、人員が補充されることもない。そういうときは、三十六計逃げるに如かずである。