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500人の読者理論

この話はたびたびしているのだが、そういえば記事で書いたことがなかった気がするので記しておく。

500人の読者理論だ。

まず簡単な計算をしよう。Kindleで本を売るときのロイヤリティは35%か70%が選択できる。ここでは70%を選択するとする。500円の本ならば350円であり、1000円の本なら700円だ。とりあえず、お手軽価格の500円で考える。

あなたが作った500円の本を、もし1000人が買ってくれればどうなるか。

500×0.7×1000=350000

35万円である。グレイト。

でも、1000人はちょっと厳しいとする。だったら、500人だ。さっきの計算の半分になるから17万5000円。これはまあ税引き前ではあるが、初任給ほどの手取りにはなる。

つまり、物書きが毎月一冊500円の本を作り、それを500人の読者に買ってもらえるなら、それで経済圏が成り立つことになる。500人という数字は、自分の生活圏では相当に難しいだろうが、広大なインターネットワールドでは手が届かないわけではない。少なくとも、YouTuberのトップを目指すよりは現実性があるだろう。

この計算が、つまり、

500×0.7×500=175000

が出発点となる。

式のアレンジ

当然、計算式はアレンジできる。

毎月一冊本を出すのは難しいとしよう。だったら、二ヶ月に一冊ならどうか。その場合、単価を上げるか読者数を増やせばいい。1000円の本にするか、あるいは1000人を集めるかだ。これで同じ経済感を維持できる。

KDPの規約上、70%のロイヤリティを頂戴するには、1250円以上の値段設定にはできない。だから値段の変数はそれほどいじれない。が、読者数はもう少しなら増やせるだろう。ただし、ここにはテーマ性との関係があるわけで、誰でも増やせるわけではないことを添えておこう。

とりあえず、

500×0.7×500=175000

が計算式の出発点で、あとは自分の状況に合わせて式をアレンジすればいい。どういう形が良いのかは、当然それぞれの人にしかジャッジできない。が、目安としてこの式は役に立つだろう。

同心円

次に、読者の同心円について考える。

一口に読者といっても、著者との距離の近さ、つまり著者に関心を持つ度合いの高さに違いがある。これを4つの層に分けてみよう。

IMG_6816

まず「コア」がいる。高い関心度を持ち、あなたが発表したコンテンツを常にチェックしてくれるような人だ。その「コア」の中でも、特に関心が高く、他の人にあなたのコンテンツをお勧めして回ってくれるような人もいる。マーケティング用語では「アンバサダー」と呼ばれるような人だ。

もしこの二つだけで500人が埋まるなら、その物書きはしっかりとやっていけるだろう。

さて、その「コア」よりもやや関心の度合いが落ちる人たちもいる。好みではあるし情報もチェックしているが、毎回あなたの本を買うわけではない、という人たちだ。ここではそれを「ファン」と呼んでおこう。

さらにそれよりも関心が落ちる人たちもいて、それを「アラファン」と呼ぶ。アラウンドファンの略だ。もちろんアラサーから想起したネーミングである。

以上4つの層で、「あなたの読者」は成り立っている。

ちなみに、この同心円のサイズは、物書きによって違ってくる。コアはすごく小さいが、アラファンが非常に多いという形もあるだろうし、その逆もあるだろう。

適切なバランスはわからないが、一冊の本の売上げはこれらの人々の購買によって決定される。

円の中心に近づくほど安定した売上げが期待でき、外に向かうほど売上げは確率的な振る舞いを強める。ちなみに、この円よりも外に大きく売上げが広がっていけば、それはブームやベストセラーと呼ばれる。ただし、その発生は予測し得ないし、それはつまりバクチと同じということだ。

入れ替わり

上記のような同心円をイメージしてしまうと、うっかり抜け落ちる視点がある。それは、これらの人々が入れ替わる、という点だ。

コアな人がファンになったり、その逆も起こりうる。円の外にいた人が円に入ってきたり、音も立てず出ていくことも珍しくない。動的な変化を含むものである、ということを考えていかなければいけない。

それはどんなコンテンツを継続的に出していくのか、あるいはコミュニティーの運営をどうするのかを考えるうえで欠かせない視点となるだろう。

ロングテール

魔法の言葉である。ロングテール。

これまでの計算式は、新刊を出したその月の販売数だけに焦点を当てていた。でも、出した本は長く売れる。電子書籍であればなおさらである。

以下は、私が出版しているとある本の売上げである。

screenshot

月の変わり目に発売したので本格的に売れているのは二ヶ月目ではあるが、それ以降もそれなりに数が動いている。最初の二ヶ月の合計(205冊)は、それ以降の八ヶ月間でほぼトータルとなる。これぞロングテールであろう。

この売上げが、先ほどの計算式に加わる。売上げの底上げにつながるわけだ。

さいごに

というわけで、500人の読者理論について少し書いてみた。簡単にまとめると以下のようになる。

  • マスにリーチしなくても大丈夫
  • コアな人を500人集めなくても大丈夫
  • 一冊の本の売上げだけ考えなくても大丈夫
  • ただし、継続が肝要

楽ではないが、不可能でもない。そう思っていただければ、つまりあなたがこの道を歩く勇気(と少しばかりの知恵)を得ていただければ幸いである。

ということを書いてみて、「これで一冊本が書けるんじゃないか?」などと思ってしまった。そういう風についつい企画案を考えてしまう人間にとって、セルフパブリッシングは福音である。

KDPではじめる セルフ・パブリッシング
倉下忠憲[C&R研究所 2014]

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